望月の章 第一話(秋風吹く中)
着いてそうそう―肌寒い風が吹き身体が冷える。
甘味処で一休みというか身体を温めることにした。
この島に来てから思う所がある。
中心地である影見劔を囲うように山々がそびえ立つ。
今更ながら島全体の事を聞けばよかった―。
そう考えながら一つ気になっている事を女給に聞く。
「あそこに建っているお屋敷は?」
甘味処の女給に聞いてみる。
「あそこのお屋敷は望月家の皆様が住んでいらっしゃいますのよ」
女給は気さくに答えた。
「望月家...ですか?」
敢えて不思議そうに答えると女給が説明してくれた。
「望月家とは、ここ影見劔を治める地主様なんです。
あ、お客様…望月邸には決して近付いてはいけませんよ」
「それはなぜ?」
「それは……昔からの決まりなのでなんとも」
困ったような顔をして答えた。
もう少し聞きたかったが調理場に立つ女将さんに呼ばれて女給は一礼をし調理場へ駆けていった。
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考えても埒が明かない為、温かいお茶を飲みつつ先程女給が待ってきたお団子を一口食しながらここに来た目的を頭の中で整理する。
今回ここに来た目的は、ただの観光と言うのは建前。
本来の目的は別にある。
望月邸の黒い噂が風の便りが届き、その噂を聞いた久我家からの頼みでもある。
些かめんど……じゃなくて致し方ない事だと言い聞かせている。
それに、私の失くした記憶とも関係があるかもしれない。
あの夢の先と失くしてしまった記憶。
その為にも、私は望月家について知らなくてはならない。
まずは島民達からさりげなく望月家について、聴き込まないといけない。
これが大変めんどくさい。
さっきの女給のように気さくな方なら話は進む。
だが、気性の荒い方や引っ込み思案の方は気難しい。
まぁ――上手く相手の懐に入れたら問題は無いのだが。一つ心配事がある。
それは、閉鎖的な場所特有の厄介事もあるかもしれない事。
古い考えを持つ人は島の外―外部から来た人間に対して強い警戒心を持つ。まるで内部に異物が入り込んだかのように鋭く狩人のような目をする。
その際の対処法などを今のうちに考えなきゃいけない。
相手を刺激しないよう慎重にしなくてはいけない。
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そうこう考えていると、あっという間にお団子を食べ終えていた。
最後にお茶を飲み干し会計を済ませ甘味処を後にする。