望月の章 十四話(ケモノには獣を)
断ち斬る勢いで振りかぶった脇差が宙を舞う。
横から来たもう一匹に邪魔をされ、手元から脇差が離れた
その隙にタックルを受け体制が崩れる。
「いっ……!」
目を瞑ったのがダメだった。
目の前に獣の牙……あ、喰われる。
《……その人に近寄るな!》
突然聞き覚えのある声が聞こえた、遠い遠い記憶……懐かしい…。
《貴女は俺が守りますから………だから、傷つかないでください》
黒鳶色の髪、顔は背中越しだから分からない……。
立派な背中で羽織には家紋、手に持つのは打刀。
《獣に斬られる覚悟はあるな……》
金色の鍔と煌めく刀身……|黒い小型犬…元いい、呪狼達が襲いかかる。
ーーーーーーー瞬きもする間もなく呪狼達の首を断ち斬る……。ーーーーー
あんなにも硬い殻を一刀両断するなんて、達人の域かと疑う。
断ち斬られた呪狼の首は床を転がり……黒炎と共に燃えてなくなった。
体の方は黒炎に燃やされ骨もバラバラに崩れ落ちた……唯一核を包んでいたであろう、殻のみが残された。
刀身を鞘に収めた。後に残るは静寂…それを破ったのはアタシ。
「…………助けてくれて……ありがとう」
《…………早く助けたかった……すみません》
「どうして君が謝るのかな。君が来なかったら死んでたからさ
それに……(懐かしい君に逢えたからね)」
《すみません………俺……次に行かなくちゃいけなくて…
さようなら………》
彼の背中越しに聞こえた声はとても苦しげで寂しげで……名残惜しそうにその場を離れる。
「あの家紋………もしかして」
今はそんな…どうでもいい様なことを考えつつ、残された核の殻を手に取る。
禍々しく手に持つと気分が悪くなる。
獣たちの悲しみ、怒り、怨みの声が聞こえてくる。
幻聴なのは理解してる……だけど、私には強過ぎる。
コレをどうにか箱にでもなんでもいいから早く納めたい。
元々コレは…神の眷属達なのだから。
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「こんな感じになります…。
ヒヨコちゃんから見た私と…朧気ながら記憶してることなのでうまく説明できずすみません…」
緋夜さんにヒヨコちゃん……ありがとう!
うん!なるほど、わからん!
なに突然襲ってき黒い獣達…禍々し過ぎるよ!
それに、助けに来てくれた人……何者!?
緋夜さ……じゃなくて紅月さんは知ってるような?
それに家紋って……どんな家紋なのか気になる。
「珠月さん……他に知りたいことは?」
緋夜さんが話しかけてくる。
「で、では……突然襲ってきた獣達はなんですか?」
「う、うーん……分かりません」
「え?」
「初めて…聞いたので実際に見たのはヒヨコちゃんのみで。
その、私……覚えてないんです」
「そう…ですか。
すみません…覚えていないことを聞いてしまい」
「いえ、大丈夫ですよ!
あ、他に聞きたいことはありますか?」
「その……助けてくれた人が誰なのか知ってるんですか?」
「それが…知らなくて」
「緋夜さんは知らない…のに彼は助けてくれたんですか?」
「そうみたいで…」
「謎ですね」
「はい…ヒヨコちゃん曰く
彼は私に対して特別な感情を持ってるのかもと…。」
「特別な感情…?」
窓から日が差す…夜が明ける。
「……そろそろ夜が明けますね」
「みたいですね」
「朝食の後はどうしますか?」
「そうですね……この土地について調べます」




