望月の章 序章(月と彼と)
月明かりに照らされた千本鳥居を進む。
生暖かく肌をくすぶる風と足元の水が重くなかなか進めない。
息は荒く胸が苦しくなりながらも進み、千本鳥居の先にあるものは―――
そこで目が覚める。
幼い頃、何度も繰り返し見ている夢。
今日も夢の先が分からず何とも言えない気持ちになる。
ため息を吐いた後、布団から身体を起こし障子を開け放ち体を伸ばして風と太陽の光を浴びる。
今日は久我家に行かなくちゃいけない。
正直に言うとめんど...。と思ったのはここだけの話。
朝食を済み終え、身支度を整え...家を後にする。
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「朝からごめんね」
お茶を出しながら申し訳なさそうに言う彼の名は―久我征斗
久我家四代目当主にして現役解き師
童顔で低身長―黒髪で灰色の瞳をした男性なのだが、よく女性と間違われる。
「いえ...大丈夫ですよ」
「ホントに?なら、良かった...」
ニコニコ笑顔でこちらを見ていたがすぐさま真剣な顔で話し始める。
「それでね...君に頼みがあるんだ。
良いかな?」
灰色の瞳がこちらを見据える。
「頼みですか?」
「うん、深吹島に行って欲しいんだ。」
「深吹島にですか? それはなぜ?」
「君は望月家を知ってるかな?」
望月家?初めて聞く名前のような...。
顔に出てたのだろう。
「知らないみたいだね...。
あぁ...あえて詳しくは言わないよ?
現地で入手した情報のみで解決して欲しいからね!」
なんて意地悪な事を―。
「とりあえず!
深吹島に行って望月家を調べて欲しいんだ。
もし、噂が本当なら僕達の出番だからね」
噂って―そこも教えてくれないのかと不貞腐れそうになる。
「分かりました。
前情報無しは正直怖いので.....せめて、噂は教えて欲しいものです」
「ぐぬぬ......分かったよ」
なんだか心配になるなぁ―この人。
「子供達を使って禁忌を犯してる...らしくて」
「禁忌...とは?」
「そこまでは...風の噂だから」
風の噂なのに行けと言うのか―無鉄砲なのやら。
「確証も無いのに...」
「もー!
無鉄砲でダメダメ解き師だけど!なんか、感じるんだよ!
物凄い闇があるって!」
直感なのか分からないのが恐ろしい―。
「わっ分かりましたから……。行きますから!そんな、泣きそうな顔はやめ……」
「ホントに!ありがとう!!」
嬉しそうな顔をしてる...女性なら可愛いと思う。例えるなら―曇天から一気に晴れ渡る空的な?
「はぁ…………では、行ってきますね」
「うん、気を付けて...。
あ、君の失われた記憶とも関係あるかもしれないからね」
ピタッと立ち止まって振り向く。
今、なんて言った?私の失われた記憶と関係があるかもしれない?
「………………私の失くした記憶と関係が……」
自然と声が震え胸の奥が熱くなる。
「関係は薄いけど……ね」
申し訳なさそうな顔で伝えてくる。
「薄くても構いませんよ…………では、行ってきます」
彼に別れを告げ歩き出す、声の震えと胸の熱は治まる―。