48:王妃殿下のおなぁりぃ
「う……嘘でしょ?!」
「嘘ではない。つい先ほど、先触れが届いたんだ。しかもそれは、王宮からの先触れではなく、我が領地の城門兵からの、だ」
つまり、王妃殿下ご自身からの通達ではないので、万一殿下が到着しても、殿下として応対してはいけないということだ。
お・し・の・び!
この場にギース様がいなければ、確かに王妃殿下だということは、だれも気づかない。
私含めて、通常国王陛下や王妃殿下にそうそうお目通り叶うことはないのだから。何度かお会いしたところで、もしもここに殿下がいても、殿下だと認識できるかは怪しいしね……。
でも、知ってしまったのよねぇ。
うぅん。どうするか。
取り急ぎ、エステの責任者であるキハーガを呼び出して貰った。
「まぁ、王妃殿下がお忍びでおいでになるのであれば、あくまでもこちら側は、高位貴族への対応と同様で問題ないと思うわ。──先触れには、馬車はどんなものと」
「紋章はなし。ただし、高位貴族が乗るようなタイプであったそうだ」
「門兵は良く殿下だとわかったわね」
「たまたま、元王国騎士団だった者が詰め所にいたらしくてね」
「なるほどね」
王国騎士団であれば、何度も王族に会っているはず。
ということは、いよいよもって私たちは殿下を殿下として扱ってはいけないということね。
「ギース様。私たちは、殿下のエステが終るまでは姿を隠しておきましょう」
「ああ、それが良いだろう」
エステが終了した後は、軽くご挨拶をする。そのくらいで良いだろう。
「もしも紹介状があれば、その紹介状に合わせた対応を。そうではなかったら、高位貴族への扱いパターンでお願いね」
「畏まりました。ではアロマ師テッサもスタンバイさせておきます」
彼女の言葉に、頷き私たちはこの支配人室で休憩を取ることにした。
それにしても……。
アロマ師なんて名称、付けてたんだ。
*
「まぁ! あなたがフォルティア公爵夫人なのね」
エステ終了後、リラックスルームにいる殿下に私が一人でご挨拶に伺う。
男子禁制だからね!
「でん……奥様におかれましては、本日ご満足頂けたでしょうか」
「ええ! とても素晴らしいわ。スジューラク公爵夫人に話を聞いて、是非来たいと思ったのよ。早い内に来ないと、サロンで話題になったときにも困るでしょう?」
私が王妃殿下と認識していることは、当然のこととして扱われている。
怖い、上位貴族。
「それにしても、本当に良いサービスだったわ。それに、領内もすっかり活気づいているわね」
「ありがたいことに、領民が皆やる気になってくれまして」
「領民は、領主の鏡よ。特に我が国は、領地の移住を認めているから、良い領主の元には良い領民が集まるようになっているの」
良い領主には、ヤバイ領民も来るとは思うけど……言う必要はないわね。
私たち領主がすべきことは、悪貨は良貨を駆逐するとならないように、日々研鑽を続けるだけ。
「ねぇ、ところでずっと気になっていたんだけれどね」
王妃殿下はとても愛らしい方だ。
お年はもう40を過ぎている筈なのに、全然衰えを見せない肌に、ケアが知りたくなるほど。
「あなたたち、まだ結婚式してないわよね」
そんな殿下が、にこにこと笑いながら聞いてくることに、イエスとしか答えられない。
どうしよう。もしもここにきて、式をしていないなら別れろとか言われたら。
まぁ言われないだろうけど。
でも、殿下が次に口にした言葉は、私が想像していた事なんかじゃ全然なかった。
「私、このままここのホテルに泊まるから、三日後に結婚式をなさいな」




