47:エステに湧く領地
疲れが溜まっていたのか、実は少々微熱が出た。
このくらい平気よ! とブラック企業社畜よろしく外に出ようとしたら、その場でギース様に抱上げられて、GO TO BEDという展開。
まぁよく考えたら、体調不良の人間が、医療の発達していない場所をふらふら出歩くことは、非常によろしくない行為だ。
なんという恐ろしくも愚かなことをしてしまったのか。
医療が発達していた日本ですら、それは忌避されるべき事だというのに……!
くっ……不覚!
そんなこんなで、体調不良も三日眠ってしっかり治った。
そこからさらに十日、家から出して貰えず、今日ようやく外出を許可して貰えたのだ。
「……ね、ねぇ。この二週間で、なんだか領地が賑やかなんだけど」
移動中の馬車で、私は向かいに座る侍女のオーテムに尋ねる。彼女は満面の笑みで、返してくれた。
「エステの効果です! スジューラク公爵夫人とモネイーヌ侯爵夫人が、ご一緒にお越しになって、大感激されまして。その話を聞いたスンデルネ侯爵夫人もすぐにお越しになり、そこからさらにラッキーヌ伯爵夫人やトリロコール伯爵夫人がご令嬢を連れていらっしゃり」
「な、なんてこと……! そんなハッピネスなことが起きてたのに、私ったら寝込んでいたの?!」
でもまぁ、いちいち領主夫人が挨拶に行かない方が、お忍び感があって良いのかもしれない。
「そこから、他の貴族夫人、令嬢、それに裕福な商家の方々がいらっしゃり、近くのレストランでお食事をしたり、ガラス細工をご購入されたり……」
「うん。確かにその報告は上がってきている。俺も確認済みだよ」
「ギース様っ! どうして私に教えてくださらなかったの?!」
「だって、教えたらあなたは屋敷を飛び出していたでしょう?」
「……ソノトオリデス、ハイ」
そんな私に、ギース様は笑いながら書類を手渡してくれた。
「実際に領地の活気を見てから、資料を見る方がワクワクするかと思ってね」
「ご配慮……!」
ありがたい。私が一番浮かれる方法を理解してくれているのだもの。
その書類には、この二週間のエステの売上げと、訪問客の顧客リストがあった。
正直に言うと……。
すごい。
この一言だ。
まず顧客が上は公爵夫人、下は──という言い方は良くないけれど──商家の店員までいる。
商家の店員は、おそらく商家夫人に連れられてきたのだろう。
これは早々に廉価版のサービスを用意すべきだ。
そう思ったタイミングで、ホテルに到着した。
馬車を降り、すぐにエステの施術室へ案内して貰う。その間ギース様には、厨房やレストランの方をチェックして貰うことに。支配人はそちら側。私はエステの総責任者を任せている、元タウンハウスの侍女キハーガと話をする。
キハーガは私を認めるとすぐに近付き、接客室へと案内してくれた。
「奥様、資料は」
「ええ確認したわ。この二週間、体調を崩していて見に来られなくてごめんなさいね」
「とんでもないことです。お体はもう大丈夫とお伺いしておりますが」
「安心して。あなた方に移すこともないわよ」
「そ! そんなことは危惧しておりません!」
慌てるキハーガに、疑ってはいないわよ、と笑って返す。
美味しいハーブティと、部屋に香るアロマの香り。
「香りはテッサ様の仕事かしら」
「仰る通りです。あの方の香りの調合は素晴らしく、公爵夫人にはその場で体調を伺ったあと、すぐにおすすめの香りを用意されていました」
想像以上の出来だ。
前世のエステでも、そうしたサービスをしているところはあったが、私が行けた安い店は、三種類くらいの中から「今日の気分を選んで」という程度だったからね。
「お茶は?」
「こちらは、領内のハーブガーデンのお嬢さんが、下のレストランで働いておりまして。そちらとこちらで別のハーブを提供してはどうかと提案が」
「それは素晴らしいわ! その方にも何か手当を出すようにしてね」
「かしこまりました」
部屋を出て、サロンの様子をそっと見る。ホテルの廊下もそうだったけれど、どこも丁寧に掃除がされていて、館内の空気がとても良い。
「最高ね」
最高潮の気分でいたときに、支配人とギース様が慌てた様子で私の方に合図を送ってきた。
このエステフロアは男子禁制にしているので、ギース様と言えど入ることはできないのだ。
「何かしらね?」
隣にいるオーテムと顔を見合わせて首を一つ傾げた後、二人が待つ階下へ向かう。
降りて早々、二人は私たちを囲むようにして支配人室へと連れて行った。
支配人の顔も、ギース様の顔も、どうも少々こわばっているようだ。
「ねぇ、何があったの?」
迷惑な客がいたとしても、この二人ならば簡単にあしらえるだろう。
ということは、そうした問題ではない。
扉が閉まったことを確認して二人に声をかけると、ギース様が私の両肩に手を置き、口を開いた。
「これから、王妃殿下がいらっしゃるそうだ」
「え……」
えええええっ?!




