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46:さらば元家族、永遠に

「おい! レダ! レダを出せ!」


門の外から騒がしい声が聞こえる。

妻で侍女頭のマティが、眉をしかめて階段を降りてきた。


「あなた、上の窓から見えたのですが、センスの悪い服を着た男二人が門の前で騒いでいます」

「ソワさん、騒いでいる男共がレダ様の家族だと主張しているのですが」


門番の一人が、状況を伝えに来る。なるほど、マティ曰くセンスの悪い服を着た男共は、奥様の元家族というわけか。


だがまぁ、今は奥様はスジューラク公爵家の令嬢となり、かつフォルティア公爵家の夫人だ。元の家族とは完全に縁を切ったとも伺っている。


「不審者として、王都警備隊に連絡をしよう。誰ぞ、裏門から馬を」


この公爵邸から王都警備隊の詰め所までは、馬に乗ればほんの数分の距離にある。


「それでは、私が」


乗馬の得意なフットマンが、軽やかに裏門に向かっていった。


「君は門に戻ってくれ。万一を考えて、警備隊が来たらサポートを」

「かしこまりました!」

「それからマティは、上の窓から一部始終をメモしておいてくれ」

「任せてくださいな」


悪い顔で笑うなぁ。

だが、彼女が見聞きしたものを、後ほど旦那様にしたためる必要があるのだ。状況をしっかりと写し取るには、観察眼の鋭い侍女頭の彼女が向いている。さらに、上から俯瞰で見ることで、全体像も掴みやすくなる。

私は地上から、状況を確認せねばなるまい。


「おい! レダはどこだ! 我がルイジアーナ領が困っているのだ。嫁いだ娘が、実家を援助するのは当然だろう」

「そうだ! 妹は兄を助けるべきだ! そもそも忌み子を家においてやってただけで、感謝されるべきなのに、恩を仇で返しやがって」


聞くに耐えない言葉を吐き出す二人に、王都警備隊が来るのを待ちきれなくなさそうになった、その時。


「そこの二人を押さえよ!」


良く通る声が響いたかと思うと、馬の足音が一斉に駆ける。そうして、すぐに件の二人の叫び声が聞こえた。


「なななななななにをする! 俺をルイジアーナ伯爵とわかっての狼藉か!」

「俺は次期伯爵だぞ! お前ら下郎が触れて良い存在ではない!」

「ほう……。ルイジアーナ伯爵家とは、スンデルネ侯爵家よりも偉いのか」


愚かな二人を取り押さえる指示を出していたのは、スンデルネ侯爵のご長男。つまり嫡子だ。

スンデルネ侯爵家は、騎士団を統括する役職を家長が代々引き継いでいる。要は、軍事の要を押さえているわけだ。


「へぁっ?! ひ、ひぃっ! ち、違います。もももも、申し訳ありません! お、おい、お前もっ」

「ひゃ、ひゃい、父上! た、たいへん申し訳ありませんっ!」


見事なまでの手のひら返し。見ていて笑いが出そうだ。


「まぁ、謝ったところで、捕縛することは変わらないが」


眉一つ動かさずに、スンデルネ侯爵子息──いや、ここでは王都警備隊の隊長と言うべきか──は、そう返し、手を軽く上げた。

それにあわせ、周りの隊員が彼らを縄で縛り上げていく。


「ぐっ……! 俺達が何をしたと!」

「そうだ! 俺も父上も当然の権利を主張しただけだ!」

「……と、言っているが?」


相手にするつもりもないが一応、といった顔で、彼が私を見る。


「奥様につきましては、すでにルイジアーナ伯爵家とは絶縁の上、スジューラク公爵家のご令嬢として、我がフォルティア公爵家に嫁していらっしゃいました。ルイジアーナ伯爵家とは、一切関わりがございませんので、公爵家の門前での、公爵夫人に対する不当な言いがかりを流布したとして、捕らえていただいて問題ございません」


「承った。護送車に乗せろ!」


気付かないうちに、護送用の貧相な馬車が到着していたようだ。

阿鼻叫喚といった状況で、男二人は叫ぶ。だが、この辺り一帯は全て貴族の邸宅だ。


叫んだところで、通りかかる人もほとんどいない。

みっともない姿を警備隊にさらけ出すだけだというのに、恥ずかしくないのだろうか。


……恥を知っている訳がなかったな。


ルイジアーナ伯爵家の男二人は、最後は引きずられるようにして護送車に乗せられていった。


「執事殿かな。申し遅れたが、私は王都警備隊長を拝命している、スンデルネ侯爵家嫡男イーイエだ。あの二人については、フォルティア公爵ご夫妻に今後一切の接近を禁ずるよう手配させていただこう。あとは、法に則った対処をするので、安心して欲しい旨をお伝えいただければ」


「ご丁寧に、ありがとうございます。フォルティア公爵家執事のソワと申します。確かに我が主に申し伝えさせていただきます」


こうして、ルイジアーナ伯爵家の迷惑な男達の襲来は幕を閉じたのだった。

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