44:ホテルの完成!
良いことは一気に続くものだ。
ギース様と結婚したばかりの頃に撒いた種は、遂に花が咲くときとなっている。
え? なんのことかって?
やりました!!
ついに、ホテル完成です!
やったーーー!
「これは何と言うか、本当に美しいわ」
ホテルの門を入ると、然程長くはないアプローチ。
その両側には、美しい花が咲き誇っていた。
以前は壊れかけていた小さな噴水からは、水が溢れている。
馬車はゆっくりと、馬車止めに回り込み止まった。
「さぁ、お手をどうぞ。俺のかわいい奥さま」
だんだん、ギース様のこれにも慣れてきている。
慣れって怖いわね……。
彼の手をとり馬車を降りると、入り口にはスタッフが二人。
支配人と、ドアスタッフだ。
領主が相手と言うことで、全スタッフを用意したいと言われたけど、今日は普通の顧客相手を想定して貰いたいとお願いした。せめて支配人を、と言うことだったので、今後も高位貴族が相手の場合には支配人は登場するということで、話をつけた。
あくまで、お忍び的に使ってもらうホテルにしたいので、高位貴族に関しても、少人数のスタッフで対応する仕様にしていきたいというのが、私の希望。
その代わり、少数精鋭ですよ、という形ね。
「ホテルフォルティルアへようこそお越しくださいました」
支配人が挨拶をし、ドアスタッフはその間に御者から荷物を預かる。
ホテルの支配人をお願いしているのは、公爵領の一番の商家の三男だ。ギース様が声をかけたところ、二つ返事で快諾されたとのこと。
「今日はよろしく頼む」
ギース様の言葉に、支配人は笑顔で頷き言葉を続ける。
「私、ホテルフォルティルアの支配人、ヴォーヌアールと申します。ギース・フォルティア様、レダ夫人でお間違いないでしょうか」
「ええ、間違いないわ」
「お二人のご滞在が、最高のものとなるよう、サポートさせていただきます。それでは建物の中へどうぞ」
流れるようなやりとり、素晴らしい。こうした出迎えなどは、支配人である彼に任せてあった。
しっかりとしたフローを作ってくれたところに、彼のやる気を感じる。
建物の中に入ると、荷物はドアスタッフからベルスタッフへと渡された。
通常、支配人が立ち会わない場合はこの二人がお客様を案内する。
高位貴族以外の貴族や、平民が泊まる宿は、受付に人がいる程度なので、喩え少人数であっても、こうして荷物を宿側が扱うのは、特別扱いを感じる体験だろう。
「レダ、なんだかワクワクするな」
ギース様のその言葉に、私は満面の笑みを浮かべる。
それこそ、私が狙っていたものなのだから。
「ギース様。ホテルの滞在を満喫しましょう」
フロアは、美しく磨かれた大理石。階段にはえんじ色の絨毯が敷かれている。窓にはめ込まれたステンドグラスは丁寧に磨かれ、館内のあちらこちらには、庭にあった美しい薔薇が飾られていた。
「こちらのお部屋が、本日ご滞在いただくお部屋です」
スイートルームの扉は他の部屋の扉とは異なり、木の扉にモザイクタイルが飾られている。これは私の今のお義父様であるスジューラク公爵領の名産だ。せっかくなので、こうした部分で協力をしていけたら、と相談したら提供いただけた。ラッキー。
部屋の扉を開けると、百合の花の香りがする。
一番大きな棚に、百合が飾られていたのだ。気持ちがほんわりするわぁ。
ベッドには天蓋がつき、カーテンもやわらかなクリーム色。床は木目込みの飾り床になっている。
「素晴らしい作りだ。他の部屋も?」
「はい、床の作りは同じにございます。こちらのお部屋は、家具の数と部屋の数が他と異なる形です」
「それは良いわね。スイートルームを使わなくても、この美しい床や、調度品を楽しんでいただければ、何度もお泊まりいただけるもの」
スイートルーム以外はがっかり、だと、客は来なくなってしまう。
やはり『自分が出せる少し頑張った金額』で素晴らしい体験ができることが、ホテル作りの要だと思う。
「お荷物はこちらに置かせていただきます」
「ええ、ありがとう」
荷物ラックにバッグを置くと、ベルスタッフは部屋を辞していった。
「レダ、これは成功するよ」
「ふふふ。ありがとうございます。旦那様」
抱きしめてくるギース様の腕の中で、私は観光業の皮算用を始めたのだった。




