42:収穫できたよ
テッサ嬢にアロマの調合をお願いすることにして、しばらくが経った。
彼女には、我が領が今まで作っていたアロマオイルを、さらに独自に調合することもお願いしている。
「奥様、皆様お揃いです」
「ギース様は?」
「扉の外でお待ちです」
「まぁ! お待たせしてはいけないわね」
最後に口紅をさしてもらい、完成した『領主の妻』メイクを鏡で見れば、まぁ十人並みとはいえ、前世の日本人の私よりはきれいな顔をしていた。
その比較ができるから、顔に関してもそこまで自己評価が低くならないで済んでいるのよね。そういう意味でも役に立っているわ、前世の記憶。
「ギース様お待たせしました」
「美しく装うあなたを待つことに、苦はないからね」
部屋の前に用意されている椅子に座っていたギース様は、部屋の扉が開くと立ち上がり、私をエスコートしてくれる。コメントまでイケメン。
今日は、以前農地改革した農家の中から代表者が数名来ている。収穫した作物もサンプルで持ってきているというので、楽しみだ。
皆の待つ大会議室に近付くと、部屋の中の活気が外まで漏れてきているように感じる。
「領主様と奥様がおいでです」
先触れとして家令のウィントルが室内で声をかけ、その後部屋に入る。
六名の代表者が、頭を下げて私たちを出迎えてくれた。
「皆、頭を上げて座ってくれ」
ギース様の声に、皆その通りに動く。
「さて、皆の顔を見れば、もう結果は聞かずともわかるが、ぜひ状況を教えてくれ。そうだな。先ずはヨトイト村から」
「はい。ヨトイト村の村長ヨットイです。うちの村はトマトとオジャガモ、ロスネギが冷害以前の収穫量と同じくらいとれました。それから、今回新しく収穫したマメエダモも王都に出荷しても余るくらいです」
ヨットイ村長は机に置かれている野菜を一つずつ指して、説明する。どの状態の土にどのくらい植えたのか。今までと何を変えたのか。
その後、他の村や町の長たちも、同じように報告と説明をしてくれた。
「うん、どの農地も、レダの農地改革が上手くいったようだね。レダからも何かあるかな」
私の方を見るギース様に一つ頷き、立ち上がる。
「先ずは皆さん、私のようなポッと出の人間の言うことを信じて、畑を耕し、作物を育ててくださりありがとうございます」
長たちは、慌てたように手と首を横に振るが、これはやはりきちんとお礼を伝えるべき時だと思っていたので、笑顔で流す。
「皆さんの農地で収穫されたものは、領内と王都への出荷がメインですが、その中の一部を新たに始めた事業にも使わせていただきたいのです。もちろん、お代は正規に支払います」
ホテルのレストランや、ガラス工房のレストランで、領地産の野菜を使いたい。地産地消というやつだ。
「今後、領内に人を呼ぶ予定です。それは、よその領地や王都からの旅行者です。そこで、我が領地の美味しい野菜や、山や海の幸などを召し上がって頂き、この地でそれらを購入して貰うというルートを考えています」
領地で販売できれば、王都への運送費もかからないし、鮮度も良いまま販売できる。
いわゆる道の駅方式の販売方法。これが上手くまわれば、我が領のウリにもなるのだ。まぁそう上手くいくかはわからないけれど。
私の発言に、長たちは皆顔を見合わせたあと、ぽつぽつと拍手がおこり、その後全員が立ち上がった。
「その方針に、賛成します」
モルビット村の村長、ルルットさんが口火を切ると、皆が次々に賛成すると言いながら手を叩く。こうして、我が領の今後の計画が、皆に支持されることになったのだった。




