41:アロマオイルのお尋ね者02
「私を雇っていただけないかと」
テッサ様の言葉に、私は思わず立ち上がってしまった。
「採用です!」
「え、まだ私のことを何も話していませんが……」
「あら、でもアロマオイルの研究をするのに、世界中を旅しているのでしょう?」
「はいその通りです」
私の隣で、ギース様が笑いを堪えている。
もう、肩が震えているのが丸見えよ。
「だったら、この領地の誰よりも詳しいのではないかと思ったの」
領内のアロマオイルを作っている人たちは、ただ昔ながらのやり方を踏襲しているだけで、何か知識が深いというわけではなかった。
彼女たちが悪いのではなく、新しい知識を入れる機会がなかっただけだろう。
今までの領民たちの様子からすると、そうしたチャンスがあれば、喜んで学ぼうとすると想像ができた。
「おそらくは……そうですが……」
「くくっ、とりあえずレダは座りなさい。ははは」
「もう! まだ笑ってらっしゃるの?」
「すまない。あぁ、テッサ嬢のことをどうこうではないんだ。レダがあまりにも勢いが良すぎてな」
ギース様の言葉に、私は納得がいかないけれど、テッサ様まで頷いているから……解せぬ。
「まぁ。とりあえずお茶でも飲んで」
その言葉に、先ほどのフルーツティが供された。
「ヌッカヌガーのお茶ですね」
「あら、ご存じなの?」
「ええ。その──このヌッカヌガーは、もしかしてご領地で?」
「ああその通りだ。以前栽培していたのだが、いろいろあって最近ようやく復活させることができてな」
「す、素晴らしい!」
今度はテッサ様が立ち上がる番だった。
彼女は私の手を取り、上下に振る。
「領主夫人! レダ夫人! このヌッガヌガーで、アロマオイルを作らせていただけないでしょうか」
私の腕が上下にぼろりと転げ落ちてしまいそうなほどの勢い。
思わず目が回りそうになった。
「はい、ストップ。テッサ嬢、落ち着いて」
ギース様が後ろから私を抱き留める。座っているから、倒れることはないと思っていたけれど、後ろ側によろめいていたらしい。
「あっ、た、大変失礼を」
「いいえ、びっくりしたけれど大丈夫。それに、あなたの今の言葉を聞いて、やっぱり雇うことにして良かったと思ったのよ」
「え、それは」
私は、体勢を立て直してから、ヌッガヌガーのお茶を一口飲み込む。
鼻を通る柑橘の香りが心地良い。
「私も、ヌッガヌガーのオイルが作れないかと思っていたのだから」




