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4:さらば我が疑念


公爵家の馬車は大きかった。

一昨年の災害の打撃を受ける前から持っていたものだからか、とても貧乏だとは思えないほどに立派な馬車に、思わずびびってしまうほどには。


「さぁどうぞ」


乗るときにまで、しっかりとエスコートされる。いやぁ、イケメンなのは顔だけではないのね。

馬車の中で向かい合う。護衛の方は外で馬に乗って走っているそうだ。


「それで……、どうして突然私に求婚などを?」

「信じては貰えないかもしれないが、一目惚れだったんだ」

「……。ギース様、私は誠実に私のことも認めていただければ、例え偽装のための求婚だとしても受け入れますので、正直に仰って下さい」

「偽装?! 何故そんなことをしないとならない」

「え? 例えば身分違いの恋とか……」

「公爵家が今大変なときに、そんな面倒なことをすると思うか?」

「確かに」

「そうだろう」


私の答えに、満足そうな顔をする。いや、公爵家が大変なときに社交界でも話題にされているような、伯爵家の娘に求婚をするのもどうかと思うけど。

ふと、そこで気が付いた。


「あの、ギース様は私の噂をご存じないのでは?」

「噂?」

「ええまぁ、ほぼ真実ですけれど」

「それは、レダ嬢がご家族や使用人にその──」


あ。これは知っているわ。


「ご存じでしたのね。では何故」

「あの場にいたのは、本当にたまたまだったんだが、なにやらもめ事が始まったようだったので、何かあれば助太刀しようと思い近付いたんだ」


助太刀、って。まぁ、助けてくれようと思ってくれたのは嬉しいことだけれど。

私の苦笑いに気付いたのか、ギース様が言葉を続ける。


「ルイジアーナ伯爵家のご令嬢は、虐げられていても逆らわない女性だと聞いていたのでね。だからもしも、暴力などが振るわれそうになったら大変だと思って」

「なるほど。オルグナイト子爵令息は、あの通りなよっちい男性ですので、暴力を振るってきたことはないのです。まあ、いつも口ではいろいろと言ってきていましたけれど」


暴力を振るってくるのは、どちらかというと家人の方なのよね。まぁ、それでも見えるところに怪我は負わせてこないんだけど。そこがまた性格の悪さを物語っているのよねぇ。


「言葉だって十分暴力だろう。彼の口から続けざまに吐かれた言葉は、眉をひそめるものばかりだった」

「ええ。それは私も同意いたします」


前世の記憶が戻る前のレダは、それでも媚びへつらって唯々諾々と受け入れるしかできなかった。何が薄幸よ。自分で自分を殺していただけじゃない。

……まぁ、小さい頃から家族や使用人に否定され続けたり、虐待され続けていたら、ああなるのも当然なんだろうけれど。あぁ、そう思うと本当に腹立たしい。


「だが、あなたは言い返した」


記憶を取り戻したからね。正直どうしてあのタイミングで突然思い出したのかはわからないけど。

でも、今となっては例えどんな瞬間で、どんな理由があったとしても、思い出して良かったとしか思えない。

何なら、あの男と結婚してしまう前で良かったわ。


「あの時の、あなたの返す言葉の一つ一つが、私には輝いて聞こえていてね。そして、その気っ風の良さに惚れたんだ」

「……なるほど?」

「我が公爵家は、ご存じの通り今は貧しい。だが、元々は肥沃な大地だった。年月をかければ、きっと元のような生活を領民にさせてやれるんだ。どうか、あなたのその強さで、ともに公爵家を復興させていってもらえないだろうか」

「なるほど!」

「え、あの……なるほど、とは」

「いいえ、その──正直に言って納得しました」


そう。私は別に格別に美しい訳ではない。あくまで普通だと思う。

それに加えて、栄養不足や手入れ不足で、一般的な貴族令嬢と比較したら、それはもう美貌なんて備忘できていないくらいだ。

でも、あの時の私と元婚約者たちとのやり取りを見て、公爵領の復興に役立ちそうだと思って貰えたのだったら、それは納得がいくし、素直に受け入れることもできる。


「私はご覧の通り、美しいわけではありません。なので、どうして突然求婚されたのかもわかりませんでしたし、だからこそ、揶揄われているのだと思っていました」

「レダ嬢は美しいと思うけどな? もちろん見た目だけで求婚を決めたわけではないが」

「いえいえ、むしろ見た目以外で決めていただいたのであれば、私は大満足です」


私の言葉に、ギース様は何か納得がいっていないようなお顔をしているけど、まぁ美醜の判断は個人の自由だしね。私を美人だと少しでも思って貰えているのなら、どうせ夫婦になるのだし、嬉しいものだ。


「では」

「ええ。改めて、ギース・フォルティア公爵閣下。一緒にフォルティア公爵領を盛り立てて参りましょう」

「ありがとう」


向かい合って座る私たちは、今度は抱き合うのではなく、握手を交わす。

うん。今生の私は恋愛ごとになれていないので、こういう所から慣れさせていただきたいものだわ。


「あぁ、できるだけ早く、正式な書面にしたいのだが、オルグナイト子爵家との婚約の破棄はすぐに整うだろうか。必要なら私が立ち会うが」

「では、この後私は家族を詰め……いえ、家族と話し合いをして、婚約破棄をすすめ、ギース様との婚約の手配を進めようと思っていますが、一緒に我が家に来られますか?」

「それは良いな。あなたのご家族にも、そこで挨拶をしよう」


元婚約者たちへの対応を見て、私に求婚してくれた人だ。

家族や使用人を詰めていく所を見られたところで、全く問題がないだろう。

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