36:ホテルを作るぞ!
ガラス工房の準備を進めている間に、侍女頭のマティが手紙を送ってくれた。
公爵邸ではすでに侍女たちが、マッサージのカリキュラム化を行い、いつでも講師になれる状態だという。
希望者にはこちらに来て、講師になってもらいたいと伝えたところ、すでに数人がこちらに向かっているそうだ。仕事が早い!
公爵領の侍女頭をしているスプリンも、この話にはノリノリだった。彼女自身は侍女が天職だと思っているそうだが、侍女の中には講師になりたいと言っている者もいるという。
「奥様、私、感動したんです」
「ええ? 一体何に?!」
「奥様が、私たちのような女性に働く場所や、仕事を選ぶ可能性をつくろうと思ってくださったことが」
スプリンは、今朝私の髪を結いながら、そう言ってくれた。
私の想いがきちんと届いているんだ、って、実はちょっと嬉しくなって泣きそうになったのだ。
内緒よ。
タウンハウスから到着した侍女たちが、公爵領の侍女たちにカリキュラムを教えている期間に、今度は宿屋の工事が始まった。
「……この手際の良さ、マティって何者なのかしら」
マティが用意した大工さんたちと、打ち合わせをしながら、私は密かな衝撃を隠しきれないでいる。
何故なら、この大工さんたちの中に、この宿屋の建物を作った人がいたのだから。
「奥様、ありがとうございます。あっしはもう、この建物を放置されるのを見たくなかったんでさぁ」
「俺もです。結構手をかけて作った建物だったんで、どうにか、って思っていたら……」
そして彼らの息子さんやお孫さんという、家族総出の大工さんが数家族。
もともと、この建物を作った方々なのだから、細かい情報もわかっている。これは大きなアドバンテージだ。
「ここは今後、宿屋ではなく『ホテル』と呼びます」
「ほ、ほてる?」
「そうです、親方。これまでと違うイメージを作るために、造語を付けていくことにしたんです」
造語じゃないんだけどね。この世界では使われていない言葉だから、造語ってことにする。
その方が話が早いから。
「まぁつまりは、ちょっとお洒落な宿屋です。そして、ここでは結婚式ができるようにします」
「お、奥様。それはつまり?」
親方のお嬢さん──彼女はなんと庭師だった──が、嬉しそうな顔をする。
「ええ、このホテルが開業となったら、結婚式を挙げる第一弾として私たちが使って宣伝しようと思っています」
この言葉に、皆が沸いた。
そんなに沸く要素があったかな? とは思うけど、まぁ愛され領主夫婦ということで良いかな。




