34:ギース様のお友達
初夜の日から数日後、ギース様の古い友人だという方と、ガラス工房があった場所で会うことになった。
「ニィスンデ伯爵家三男、トーオクと申します」
「お初にお目にかかります。フォルティア公爵の妻、レダと申します」
「トーオクは、俺の幼なじみなんだ」
「そうなのですね。お会いできて嬉しいですわ」
「どうぞ、トーオクとお呼び下さい」
「では私のことはレ」
「フォルティア夫人と呼ぶように」
ギース様が私の言葉を遮ってそう言う。
これは、名前を他の男性に呼ばせたくないということなの?
嫉妬? 嫉妬すぎない?
彼の言葉に、トーオク様が思わず、と言った具合に吹き出す。
トーオク様は甘い感じの美形なので、吹き出した表情でもとてもイケメンだ。イケメンしかいないのかしら、この世界。
金髪がさらりと揺れるのを見たら、ときめく女性は多いのではないかしらね。
「ギース、それは奥方の名前を僕に呼ばれたくないからか? それとも、目の前で自分の奥さんだとわかる呼び方をされたいからか?」
「両方だ。お前が人の妻に手を出さないことは知っているが、女たらしなことも良くわかっているからな」
「失礼だな。全ての女性に親切なだけだよ」
ギース様と話していると、砕けてくる彼の姿を見てなるほど、となる。
確かにこの金髪碧眼に甘い顔で笑いかけられたら、勘違いする女性もでてくるだろう。勘違いさせるなって気もするけどね。
「ふふふ。お二人は仲がよろしいのですね。でもギース様。私は誰かの妻という呼び方よりも、私個人をきちんと名前で呼んでいただきたいです」
「そ、それもそうだな! うん、レダの言うこともわかる。よしトーオク、レダ夫人と呼んでくれ」
「お前完全に尻に敷かれてるじゃないか。いやでもまぁ、そのくらいの方が、お前には良いか」
バシバシとギース様の背中を叩くトーオク様。二人の仲の良さが伝わってくる。
ギース様がお友達と一緒にいる様子が知れるのも、なんだか嬉しい。
「それで、レダ夫人。僕にガラス工房の経営者をして貰いたいという話ですが」
そうなのだ。
ガラス工房を復活させ、この領地の商業を復活させたいと思っている。
この領地にいた職人の腕の良さは、宿屋跡で良くわかったからね。以前にも増してガラス工房を復活させたく思っているのだ。
「ええ。トーオク様は、すでに商会をお持ちと伺っております」
「僕は家を継げない三男ですからね。食っていくために商会を興して数年、といった所です。まぁ売上げはそこそこと言いますか」
そうは言っているが、数年にしては利益は順調に出ていて、経営も健全だということは事前の資料でわかっている。
「そこで、もう一つ経営する場所を増やしていただければと思っているのです」
「それがガラス工房?」
「工房だけではありません。商品開発をしていただき、商品を小売りする店舗の経営と、さらにレストラン経営も」
「レストラン?」
「はい。レストランも経営していただくつもりなんです」
トーオク様は口の端を僅かにあげ、私に一歩近付く。
「いいね。面白そうな話だ。詳しく聞かせて下さい」
「近付きすぎだ」
ギース様とトーオク様の言葉が、見事に重なったのだった。




