32:今度こそ初夜?!
「今日は、夜に初夜をしよう」
そんな言葉をギース様に言われてから、公爵邸に帰宅するまで私の脳内は、大忙しだった。
だって、もう少しいろいろな事が落ち着いてから初夜をすると思っていたんだもの。
一体何がギース様の琴線に触れて、今日初夜をすることになったのかはわからない。でもまぁ……。侍女頭のマティにも、領主夫妻の出産は、領民の喜びでもあると言われているし、悪いことではない、のかな。
公爵邸に帰って夕飯を食べる。
もう、正直ご飯の味なんてあまり覚えていなかった。せっかく作ってくれたのに、料理長ごめんなさい。
でも、なんとなく美味しい美味しいと食べていたことは記憶に残っているから、失礼をしてはいない、と思う。
そこからお風呂に入り、磨きに磨かれ──つまり、皆さん今日私が初夜を改めて迎えることをわかっているということなのよね──、そうして防御力0のような、うすいぴらぴらのナイトドレスを羽織って……今に至っている。
どうして良いのかわからず、とりあえずナイトドレスの上に羽織らされたガウンの前を閉じてみる。ウエストに紐もあったけど、さすがにこれをがっちりしめるのは、情緒がない気がして辞めた。
そりゃ……前世では処女ではなかったわよ。
でもさぁ。このレダの体は処女だし、そもそも体が処女ということは、気持ちだってそれなりに処女になっているわけで……。ぶっちゃけ緊張しかない。
それに、前世で初めてがとってもとっても死ぬほど痛かった、という記憶だけが残っていてさ。
正直どのくらい痛かったかなんて、まったく覚えていないけど。
だからこそ不安だけが増していくのだ。
「レダ? 入っても良いかな」
ノックと共に、ギース様の声がする。
「はっ、はい!」
声が裏返ってしまった。
そんな私のことを笑うこともなく、ギース様は優しく微笑んで部屋に入ってくる。
とりあえずどうして良いかわからないまま、ベッドの前で出迎えてみた。私をベッドに座るよう促すと、彼も隣に座る。
「緊張、してる?」
「そ、その、そりゃ、あの──ハイ」
「うん。俺も」
そう言って、ギース様は私の手を取ると、彼の胸に当てる。
「あ……速い」
ギース様の心臓の音が、どくどくと速く脈打っているのがわかる。
それが、とても嬉しかった。
私だけが緊張しているわけではない。
ギース様も緊張している。
お互いが、お互いを思い合っているからこその結果だと思うと、嬉しくてたまらなくなった。
「なに? すごく嬉しそうな顔してる」
ギース様の手が、私の頬を撫でる。ゆっくりと上を向くと、彼の瞳が近くなってきた。
目を閉じ、彼の唇を受け入れる。
触れるだけのキスは、お互いの恥じらいを表現しているように感じてしまう。
「レダ。愛しているよ」
耳元で囁かれるそれは、私の体中に響き渡る。
体内の血液が沸騰してしまいそうなほど、私の感情を揺さぶった。
たった、一言なのに。
たった、一言だからこそ。
「ギース様」
だから、私も告げる。
「私も、愛しています」




