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3:貧乏閣下からのプロポーズ

「あなたに、求婚します」


公爵閣下のその言葉は、彼のイケメン度合いに見惚れて浮かれていた私の心を、一気に冷静な方向に引き寄せてくれた。


「閣下、お戯れが過ぎます。今ここに他の方が通りかかったら、一目で求婚とわかってしまいます」


片膝をまずやめよう。遠目で見ても、プロポーズの仕草なのだから。

そう告げても、彼は首をゆっくりと振るだけ。

何?! 何なの?! こんな時に、貴族仕草のようなゆったりとした動きを出さなくても良いのよ?!


「戯れではない。本当に……本気なんだ」

「閣下とお話しするのは、今が初めてです。そして、閣下が私を認識したのはおそらく──先ほどの元婚約者との一件でしょう? この流れで求婚される理由がわかりません」


どうにか立ち上がっていただこうかと、手を引っ張ってみる。が、いくら使用人の仕事をしていて他の令嬢よりは多少体力があると言っても、良い年の男性を動かすことなどできやしない。それどころかむしろ──


「ちょっ! 離してくださいませ」

「あなたが力をかけたのでしょう?」


閣下にその手を逆に引っ張られ、抱きしめられてしまった。

男性向けの香水の匂いなのか、ふわりと良い香りがする。うっ、香りまでイケメン……!

いや、そうじゃなくて!


「ルイジアーナ伯爵令嬢。どうか、婚約を受け入れて欲しい」


ひええ……! 耳元で聞こえる閣下の声は、思っていた以上に破壊力がある。

声までイケメンじゃないの。これは……これはダメだ。


「あの、と、とにかく一度体を元に」

「そう……ですね」


なんでそんな残念そうな声を出すのよ。

体を支えていた手が離れる。どうにかもう一度彼の前に立つと、改めて下から見上げられてしまう。

うう、そんなに真剣な瞳で見つめられると困る。

でも──ふと気付いてしまう。


ハティスと婚約を破棄した以上、私は次の婚約者を探さないといけない。とは言え、すでに17歳の私と婚約できる年齢の貴族男性で、まっとうな人間がどのくらいいるのか。

この世界、割と若いときに婚約者作っちゃうんだよね。


それに、この後私は帰宅したら家族を締め上げる予定でもある。

だとしたら……もしかしてどこの誰ともわからない、当たりか外れかもわからない婚約者を探すより、少なくとも堅物で有名な公爵家に嫁ぐ方が良いのではないだろうか。


貧乏? まぁ、前世庶民だった身だ。それも薄給ブラックの申し子とも言える氷河期世代の人間。多少のことは乗り越えられる。

例え公爵閣下が、何か思惑があって──そうじゃないと、どう考えてもおかしい──私に求婚したとしても、私は私で言い方が悪いけれど、彼を利用させて貰うのはアリなのかもしれない。もちろん、きちんと愛情を持って接することができるように、努力はするけどね。


私は一つ息を吐きだし、改めて公爵閣下を見つめた。

そうして、繋がれている手に僅かに力を込め、返事をする。


「求婚を、お受けしま」

「ありがとうっ!」

「ちょ、最後まで言わせ……っ、あの!」


言葉を言い切る前に、閣下が立ち上がり再び私を抱きしめた。

今度は彼が立ち上がっているから、私の足はぶらぶらと宙に浮いてしまっている。

家族よりも少ない量の食事しか出されていない私は、同年代の令嬢と比べて細いし小さい。そして閣下は、武の公爵家の生まれ育ちだ。見た目以上にしっかりとした体に、背も高い。うう、でもこの細マッチョ、すごい好みだわ……。


私を抱き上げ、嬉しそうな顔をしている閣下を見ると、まぁどんな企みがあったとしても良いか、なんて思ってしまうのよね。


「閣下、あの」

「ギースだ」

「え?」

「ギースと呼んでくれ」

「で、では私のことはレダ、と」


私を地面にそっと下ろすと、閣下──ギース様は、腕を出してくれる。おお、これはエスコート。元婚約者が他の方にしているのは、よく見ていたけれど、私は一度たりとてして貰ったことがない。もちろん前世の日本ではそんな習慣はないので、生まれて初めてエスコートをして貰うことに。


彼の腕にそっと手を添える。正直これで合っているのかはわからないけれど、特に何も言わずに、私を見てにこりと微笑んでくれたので、問題ないのだろう。


……と、言うよりも、キャラが違いすぎない? これのどこが堅物公爵だというのだろうか。さっきからクールなお顔は、にこにこと笑いっぱなしだし、行動は初対面の私に求婚したかと思えば、抱きしめてきたり──だめだ、思い出したら顔が赤くなってしまう。


「レダ嬢。妙に顔が赤いが、大丈夫か?」

「……そのニヤニヤ顔。わかってておっしゃってますね?」

「うん、良い。その返しが実に良い」


なんだろう。ギース様はちょっとMっ気でもあるのか?


「あなたの家の馬車はどちらに?」

「馬車? そんなものはありませんわ。歩いてきました」

「歩いて?! いや、しかしルイジアーナ伯爵家のタウンハウスからここは、歩いて20分ほどはあるのでは」

「男性の足でそのくらいですね。私の足ではだいたい30分から40分くらいです」


でも仕方がない。我が家は、使用人が買い出しに行くのには、下級馬車を使わせるというのに、私が出かけるときにはそれすらも使わせてくれないのだ。元婚約者に呼び出されたり、全貴族の子女が義務教育となっている貴族学校に通うには、歩いて行くしかない。まあ、おかげで足腰は強くなったけれどね。


「では、ルイジアーナ伯爵家まで、我が家の馬車で送らせて欲しい」

「それは是非お願いしたいです。そして、馬車の中でいろいろと確認をさせてくださいませ」


私の言葉の意味をきちんと理解してくれたギース様は、一つ頷くと、そのまま私を公爵家の紋章のついた馬車まで連れて行ってくれたのだった。

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