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26:公爵様のイイ人

タウンハウスから、公爵領のカントリーハウスに戻ってきた。

王都では、無事に私達の婚姻届も受理されたので、これで名実共に公爵夫人となったわけだ。


カントリーハウスに戻って早々、領内のいたるところから良い報告が届いた。

土壌改良であったり、漁であったりを指示していたが、どれも少しずつではあるが前進しているらしい。嬉しい限りだ。


税金もかなり優遇してもらって、還付金も出ることになった。還付金を元手に、今度は新規事業と、右肩下がりの工業的な部分に手を付けないといけないわね。


「ギース様」


執務室へ入ると、彼はいくつかの資料を確認していた。覗き込めば──これは私に許可されている行為だ──領内の収支報告の一覧だった。


「ここ」


赤字になっている箇所を指差す。


「うん。これは土砂崩れで工房が埋まってしまったガラス工芸部門だね」

「ええ。第一次産業だけでは、天候不順のときに厳しくなります。そこで、工業を復活させたいと思っています」


私の言葉に、ギース様も頷く。


「あなたの言いたいことはわかる。ただ、ガラス職人の多くは他領に移住してしまっているんだ」

「ええ、その話は以前伺っております。でもそれは、職人に再び戻っていただけば良い話じゃないですか」


ギース様が流石に怪訝そうな顔で私を見た。何を簡単に言ってるんだこの女……まではいかなくとも、似たようなことは思ってるかもしれないわね。


「彼らが移住したのは、働く場を求めて。で、あればよりよい環境を用意すれば、戻って来るでしょう?」

「しかし……今そんなに給料を払えるガラス工房などないぞ。むしろ、ガラス工房自体が残っているかも怪しい」

「ありません」

「え?」

「今現在、営業がきちんとできている工房はありません、と申し上げたのです」

「ではあなたが言う、より良い条件とは」


ふふふ。

眉間にシワを寄せて考えている美形も、悪くないわ。眼福眼福……。

なんて言ってると、ギース様が悩み過ぎちゃうわね。


「領主がバックアップして、工房を興すのです」

「つまり俺が?」

「ええ、あなたが──とは言っても、領主が表に出て事業をするなんて、良いことなんてありません。と、言うわけでですね」


私はにっこりと笑みを浮かべ、ギース様に告げた。


「ギース様、あなたのイイ人を紹介してくださいな」



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