24:レッツマッサージ!
初夜の翌朝。
侍女頭のマティには、事情を説明した。
シーツに血の跡がないことで、いらぬ不審を抱かせても良くないしね。
「まぁっ! お二人とも……。けれど、領民にとってみれば、領主ご夫婦にお子様が生まれることも、喜びなんですよ」
「それもあるけどね。せめて、もう少し……領地が落ち着いてからが安心だから」
「ありがとうございます……」
マティはすぐに他の侍女に声をかけて、お湯を用意してくれる。
朝からお風呂だなんて贅沢だけれど、ありがたい。ゆっくりと湯船に浸かり、髪の毛や体を洗って貰う。公爵邸に来て覚えた、ありがたい時間。
お風呂からあがればマッサージ。
ベッドに横たわり、アロマオイルで──。
そう、アロマオイル。
「アロマオイル!」
「えっ」
「あ、ごめん。びっくりさせちゃったわね」
私の体をマッサージしていた、侍女のドリュが、びくっと体を跳ねさせていた。申し訳ない。
「ねぇ、ドリュはこのマッサージの技術はどこで学んだの?」
「マティさんに教わりました」
「へぇ。ねぇマティ。あなたはどこで学んだの?」
「以前いらした侍女頭さんです」
「なるほど、代々習っているわけね」
「はい。公爵邸では、全侍女が学びます」
「それって、貴族のお屋敷ではどこもそうなのかしら」
この質問に答えたのは、侍女のメルティだった。
「私は三年前まで、パトリオット伯爵家で働いておりましたが、数人の奥様付きの侍女のみがマッサージをする技術を持っていたようです。そうした侍女を雇い入れていると、伺っております。また、出自が子爵家なのですが、我が家ではマッサージができる侍女なんて、雇うことはできませんでした」
なるほど。
逆に言えば、マッサージができればつぶしが利く、とも言えるわけだ。
「ナイスだわ。これは商売になるわよ」
「それは、私たちが出張をするということでしょうか」
「そうじゃないわ。あなたたちは、むしろ講師側よ」
マッサージを終えて、体を丁寧に拭かれる。そうして、ガウンを羽織ってハーブティを頂く。
そうね、このハーブティも使えるわ。
「講師?」
少しだけ不安げな表情で、メルティが反芻する。
「ええ。我が領内の中で、マッサージを学びたいという女性を募るの。あなたたちは、その子達に、立ち居振る舞いから始まって、マッサージの仕方を教えてあげて」
「奥様、それは」
「マティ、安心して。彼女たちを領外に売りに出すわけじゃないわ。そうじゃなくて、領内にエステを作るのよ」
「エ、エステ?」
エステに代わる言葉が浮かばなかったので、もう面倒だからエステ、ってそのまま使っちゃったけれど。
まあつまりはそういうことね。
「マッサージを受けたい人は貴族でも、平民でもどなたでも受け入れるサービスの施設よ。その代わり、女性限定だし、最初はそれなりの料金にするわ。ある程度クチコミが広がったら、サービスの廉価版も出して、来るハードルを下げる。その時には、建物も別の場所に用意するの。貴族だろうと平民だろうと、金額で区別するだけ。その代わり基本は、皆貴族に対するような丁寧な接客をして貰うわ」
私の説明に、侍女たちが──マティも含めて──目をキラキラとさせている。
「奥様、そのマッサージの施設のスタッフを私たちが育てる、ということでしょうか」
「そうよ、メルティ。その時に、我が領のアロマオイルとハーブティも使うの。使い方はあとで説明するわ」
上手くいけば、雇用も消費も促せる。
取らぬ狸の皮算用ではあるけれど、私は頭の中で、にんまりと金勘定を始めてしまったのだった。




