23:も、もしや初夜?
お風呂に入り、いつもより入念にマッサージをされて、なんだかいつもよりうっすい、ひらっひらの夜着を用意された。
髪の毛は軽く片側に纏められ、リボン一つで、それも結び目がかなり緩くされている。
ここまでされれば、さすがに気付く。
こ、これは……初夜なのでは。
確かに、婚姻届が受理された今日は、結婚が成立した日だ。
つまりは、この世界で言うところの所謂一つの、体を許しても良い日、と言うわけで。
「まままま、まじかぁ……。心の準備……心の準備……」
一人大きなベッドのある夫婦の寝室でお茶を飲みながら、思わず口にしてしまう。
この体では未経験だが、前世では子持ちだったので勿論経験はある。
でも、それとこれとは別だ。
「うぅん。でもまぁ、ギース様なら」
これがあの、元婚約者ハティス・オルグナイトだったとしたら、とにかく目をつぶって心を閉ざして、としていたことだろう。
でも、相手はギース様だ。
彼のことは信頼できるし、愛情もしっかり感じる。
ただ、一つ気になるのはこの世界では、避妊具がまだないのだ。
今の公爵領の貧乏具合では、妊娠したとしても、少々大変なのではなかろうか、とも思う。
そんなことをツラツラと考えていると、ノックがした。
「入っても良いか?」
「あ、はい!」
思わず元気に返事をしたものだから、ギース様が笑いながら入ってきた。
「元気だな」
「いえ、そのちょっと緊張はしてます」
「だよな……。その、良いのか?」
「良いのか、とは」
「今日の今日で、とは、レダも想定外だろう?」
そう言いながら、ギース様は上着を私に掛けてくれた。
きっとぴらぴらのうっすうすの夜着が、目に入ったのだろう。
「まぁ、そうですね。ただ、私はあなたに抱かれること自体は嫌ではありません」
「レダ……!」
「ただ」
「ん? た、ただ?」
「万一すぐに妊娠をした場合、今の公爵領の状態では、と」
「ああ……」
私の言葉に、ギース様も真面目な顔になる。
「正直なところを言えば」
「はい」
「今すぐにでも、レダを抱きたい」
「あ、はい」
「ただ、レダが言うように、今の我が公爵領の惨状では、安心して子を産み、育てることもできないだろう」
彼の言葉に、ゆっくりと頷く。
私たちは、先ずは領民の生活を安定させないといけないのだ。そのために、領内を馬で駆け回ることも多いだろう。
呼ばれればすぐに様子を見に行く必要だってあるかもしれない。
「今夜は──うっ、こ、今夜は」
これは、ギース様は理性と戦っているところね。
「ギース様。一つ布団で、抱きしめ合い、子作り以外のことをしましょう」
あまりにも見ていられなくて、思わずそんな提案をしてしまった。
具体的に何をどうするとは告げなくとも。
ベッドの中で、私たちはお互いの存在を確認しあったのだった。




