22:結婚しちゃったね
「ありがとう。これから新しい一歩が始まる」
「ええ。末永くお願いしますね、ギース様」
王城を後にし、私たちは馬車に乗っていた。
ガタゴトと揺れる車内で並んで座っていると、今までは何ともなかったのに妙に気恥ずかしくなってしまう。
「レダ? どうかしたか?」
「いえその……。何だか恥ずかしくって」
「恥ずかしいって、例えば俺がこうしたら?」
「……っ、ちょ!」
ギース様は私の体を引き寄せ、頬を寄せる。すりすりと触れあう肌が、体温を共有して心地が良かった。
そのまま体はギース様の膝の上に移動させられ、顔中にキスを落とされる。
「ギ、ギース様! 馬車! 馬車の中です」
「だから? さっきまで散々人前だからって、我慢させられたんだ。馬車の中なら二人きりだし、良いだろう?」
甘い瞳で見つめられれば、嫌、とは言えない。
うう……。イケメン耐性がない上に、ギース様の顔には弱いのよ、私。
「ねぇ? 馬車なら良いよね?」
「う……」
「だめ?」
「い……いいで……す」
ついに私が折れることになる。言質を取ったと言わんばかりに、ギース様は私の体をさらに強く抱きしめては、耳朶やら頭やら額やら、頬やら、鼻の頭やら、顔中至る所に唇を落としていく。
「ギ、ギース様、そろそろお屋敷に着いたのでは」
「そうかなぁ」
さっき門が開いた音がしたもの! もう着くわよ!
馬車の速度も落ちてきている。
そう思っていたら、やはり馬車が止った。
扉の外からノックがかかる。
「あけて良いよ」
「えっ、ちょっと待って、今私まだギース様のひ──」
……ざの上、と続けようとした所で扉は開くし、ギース様は私を抱いたまま馬車から降りるし。
これは、初めて公爵邸に来たときと同じパターンじゃないの。
「もう、今更だろう。公爵邸の皆も、俺がレダに愛情をかけるのを歓迎してくれている」
「私が結婚したのは、本当に堅物公爵様なのかしら」
「そんな呼び名、他人が勝手に決めたことだろう」
そう言われれば、それ以上は言えないわね。
確かに、自分からそう呼んでくれと言ったわけでもないだろうし。
「それに、誰にでもこんなことしていたら、ただの変態だ」
「それはそう」
間髪入れずに返事を返したものだから、ギース様が大笑いしてしまっている。
ちょっと、笑うなら私を降ろしてからにして! 揺れるじゃないの!
執事のソワと、侍女頭のマティを始め、公爵邸の皆さんが並んでいる。
皆もなんだか嬉しそうに笑っていた。
「皆、出迎えありがとう。今日は良い知らせを持ってきた」
ええ、私を抱いたまま話すの……?
でも流石に、話を始めたギース様の言葉を止めるわけにはいかない。
どうにも居心地が悪いんだけれど……。
そんな私に気付いたのか、ギース様がそっと私を地面に降ろしてくれた。
良かったわぁ。
「レダ」
「? はい」
名を呼ばれたので返事をし、彼を見る。
すると、彼は私にそっと手を差し出した。これは、ここに手を乗せるのだな、と手を重ねる。
正解だったようで、ギース様がにっこりと笑う。
それには、私もにっこり。
「皆、本日付で、レダは正式に私の妻となった」
その言葉に、使用人たちは一斉に顔を見合わせる。
「レダ、何か言葉を」
「えっと……。あの……。け、結婚しちゃいました。その、これからもよろしくお願いいたします」
私の締まらないコメントに、ギース様は怒るどころか嬉しそうに髪を撫でてくる。
そして、使用人の皆さんは拍手をし、執事のソワと私の侍女でもある侍女頭のマティは、抱き合って喜んでいた。
なんかほんと……、締まらないコメントで、ごめんね?
結婚、しちゃった。




