20:大蔵卿との面談
「うん、なるほどね。わかった。では、フォルティア公爵領の税はこの先三年の間、元の税の半分としよう」
「よ、良いのですか」
「ああ。こうしてきちんとした資料を出してくれた上で、領主からの申し出があったんだ。大蔵省としては、精査した結果それを受け入れる方針を決断するのに、なんら問題もない」
思いのほかあっさりと受け入れられたことに、ギース様が驚いている。
でもね。
これで満足しちゃだめなのよ、ギース様。
「恐れながら閣下、発言をお許し頂けますでしょうか」
「レダ・スジューラク嬢、発言を許します」
今は正式な場だ。こうしたやり取りの一つ一つも重要になる。
特にギース様のように、大蔵卿や法務卿と旧知であるわけではない私は、きちんと礼に則っているということも、このあとのやり取りを成功させるには、大切だ。
「フォルティア公爵領の税について、災害にあってから先月末までの分についても、還付をお願いしたく申し上げます」
「……へぇ?」
大蔵卿の瞳がすぅ、と細くなる。話を見極めようとしているのだろう。
「先ほど提出した資料のうちの二冊目、その35ページからをご参照下さい。そちらに、私が先ほど申し上げた期間の、収入が記載されております。あわせて、その横には国庫に納めた税金も記載し、マイナス分については黒い三角を併記しております」
三角記号がマイナスを表現するというのは、この国では使っていなかったが、ついついクセで書き込んでしまった。そうしたら、皆が見やすいしわかりやすいというので、結局それを使うことにしたのだ。
特にこうした表記に決まりはないらしいので、今回は説明を付けることでそのまま提出している。
「あぁ、なるほど。これはわかりやすいね。この三角も良いなぁ。これ、今後うちでも使おう。スージュ君、よろしくね」
「畏まりました」
あの疲れているイケメン、スージュって言うんだ。きっとどこかの貴族の次男か三男なんだろうな。お疲れ様です。この大蔵卿人使い荒そうな気がするわ。私の第六感だけど。
「災害にあったときから先月までのここから、マイナス計上のうちの五割を還付しよう。月日が経っているから、全額とはいかないよ。いいね?」
「十分にございます。大蔵卿、ありがとうございます」
大蔵卿の言葉に、ギース様は目を見開く。そうしてゆっくりと瞬いた後、土下座する勢いで──この世界に土下座はないので──床に膝をつき、深く頭を下げた。
「誠に……感謝申し上げます」
大蔵卿は明るく笑いながら、ギース様に椅子に座るように告げる。
「君がこうしてきちんと来てくれたことに、安心したんだ。本当は、最初の税の軽減額だって、もっとふっかけてくるかと思って割と小さい額にしたんだけどさ。それで納得しちゃった上に、感謝までされて、困ったよ」
なるほど。そういうことだったのね。
これは完全に、ギース様の失策だ。彼もそれに気付いたようで、深くうなだれてる。
「良い嫁を得たねぇ」
「はい。全く以てその通りです」
「……欲しいな」
大蔵卿が薄く笑いながら、そう言う。
それに気付いたギース様は、直ぐさま私を体の後ろに引き寄せた。
「いくらあなたでも、絶対に許しません」
「は! 良いねぇ。ギース・フォルティア、やっと面白い男になってきたじゃないか。レダ嬢は得がたい嫁だ。横取りされないように、気を付けろよ。あぁ、俺は愛妻家だからな」
それだけ言うと、大蔵卿は部屋を出て行った。
書類を纏めたお疲れ顔イケメンのスージュ君は、苦笑いを浮かべた後、
「あれは、愛妻家ではなくて恐妻家ですよ」
そう一言言い残して、部屋を後にした。
残された私たちは、顔を見合わせた後笑い出してしまったのだった。
 




