17:公爵領の名産を作ろう
あの後、他の農地もいくつか回り、皆さんの農地に合う方法を一緒に話し合ったりして、その度にギース様やら農家の皆さんに感動されて大変だった。
とりあえず結果がでないことには、褒められても落ち着かないので──失敗したら目も当てられないじゃない?──褒めるのは後にして欲しい、と毎度言ってしまった。
「何か転換となる可能性が見えるだけで、私達には十分、光に感じるのだよ」
なんてギース様は言い出すし、皆さんも同意するし。
ブラック企業では考えられない好待遇じゃないの。
数字を出さなかったら怒鳴られるし、数字を出しても怒鳴られたあの頃を思い出すと、遠い目になる。
「レダ? 今良いか?」
そんなことをぼんやりと思っていたら、ノックと共にギース様の声が。
今私は、公爵邸でお風呂上がりのまったりタイムを過ごしている。お風呂も、侍女さん達が入れてくれて、なんとマッサージまでしてくれるのよ。
アロマオイルなんてもったいないから、って言ったら「領内で作ってるから大丈夫ですよ」って言ってくれて……。貧乏公爵領だと言うのに良いのかしら。
……ん?
あれ、もしかして。
マッサージの気持ちよさに流されてたけど、アロマオイル……商品になるんじゃないの? 売り出し方、考えてみよう?
「はい、どうぞお入りください」
「休んでるとこ悪いな。今日はお疲れ様──ありがとう」
「いえ、ギース様もお疲れでしょう?」
椅子を勧め、ポットに入ったハーブティを注ぐ。
先程淹れて貰ったばかりなので、まだ温かい。飲みたくなったら都度呼んでと言われたけれど、そんな一杯毎に人を呼ぶなんて、申し訳ないと思ってポットに淹れておいてもらったのだ。
「夜なので、ハーブティで」
「何か関係あるのか?」
「夜に紅茶を飲むと、カフェインが……」
「カフェイン?」
しまったーーー!
もしやもしや、この世界にはまだカフェインという概念はないのか。
確かにレダの時、そんな単語聞いてないものね。あちゃー。
「あ、えっと……。以前何かの本で読んだんです。その成分があると、眠りにつくのに障りがあるとか」
「へぇ。レダは物知りだな」
ギース様、私へのジャッジあまあまのゆるゆるだわね……。
「あ、それで御用は」
「ああ、うん、その……」
「? どうぞ気軽にドバーンと!」
「ドバーン……。いや、その……レダと話をしたいと……思ってな?」
ギース様。
それは……、それは、そんな少しはにかんだ表情で言うものではありません。
鼻血でそう……。
「レダ?」
「も、もちろん歓迎ですわ!」
こんなに優しくしていただいて良いのかしらね。ありがたや。
「あ、そうだ。ギース様、アロマオイルについてご相談がありまして」
「アロマオイル?」
「ええ。私のマッサージで使って貰ったアロマオイルが、この領地で作っているものと聞いたのだけど」
「確か、領内消費用に細々と作っていたはずだが」
細々と……か。
ということは、量産は難しいのかしらね。
「それは、作り手が不足しているから?」
「いや、冬の間の仕事だから作り手がいないことはないのだが、どこの貴族もだいたいお気に入りのオイルを使っていて、売り先があまりないんだ」
なるほど。
ということは、付加価値をつけて売るか、貴族以外の中産階級に売るか……あとはサービスに乗せるか、よね。
「一度、アロマオイルの量産についてと、人件費を含めた原価を知りたいのですが」
「わかった。資料を用意しておこう。なにか思いついたのか?」
「農業も漁業も、どうしても自然との調整ですもの。何か他の名産も作っておいたほうが良いかと……」
アロマオイルも植物からの抽出にはなるが、ハーブなど比較的環境変化に強いものも用意できるので、いざという時にも役に立つ気がする。
まぁ、それでなくとも収入の元は複数ある方が良いし、冬の間の仕事であれば多くの人が参加できる方が断然良い。
「それと、ギース様! 思ったのですが、税をしばらくもっと下げてもらえるよう、大蔵卿に相談できないのでしょうか」
私の言葉に、ギース様は三回、瞬きをして動きを止めたのだった。




