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王宮からの王妃選びの手紙が届いてから、
すぐに王都に行く準備を始めた。
準備と言っても、服や靴などはメイドに任せているので、
もっぱら書類の調整である。
爺にはここで指揮を執ってもらう予定だったが、
久しぶりに王都へ行きたいと言う事で、
爺も一緒に王都へ行く事となった。
簡単な定型書類は、両親でも何とかなると思うが、
少し複雑なのになると、私が判断した方がいい。
領地から王都まで、最速で運んで3日かかる、
それを見越しての書類整理である。
「爺、本当に王都へ来るの?」
「王妃選びには使用人も連れてくる事ができますからな、
私もいた方がよいでしょう」
「それは、パーティで選ばれた令嬢だけでしょう?
えっと確か、まず条件に合う令嬢が王宮に集められ、
パーティが開かれる。
そこで、王子の目に留まった令嬢が、王宮に泊まって、
数日選抜を受けるのよね」
「そうですじゃ、まあ王子の目に留まると言っても、
実際の所、パーティでの振る舞いのテストですな」
爺は随分詳しそうだ。
そう言えば爺は不思議だ。
私の家庭教師として雇うまでは、どこで何をしていたか、
まったくの謎なのである。
とある公爵の紹介状を持っていたので、
身元がしっかりした人物である事は確かだが、
今回王都と縁があった事も初めて知った。
まあ、昔王都にいたのなら、
懐かしい場所へ行くのもいいかも知れないわね。
私はあっさり考えるのを止めた。
爺の事は、東洋の本に出て来る仙人のように感じている。
だいたい50代半ばで死ぬ事が多いのに、
63歳になってもまったく衰える事を知らない。
流石に全て白髪だが、その髪ですら上品である。
仕事も現役で、医者から長寿と健康の秘訣を聞かれていたりする。
今まで、何度も困難にあったが、全て爺が手掛かりをくれた、
実は私の実力に合わせて仕事をしてくれているだけで、
本当の底力は、もっと深い所にあるのかもしれないとさえ思わせる。
私の爺に対する信頼は、国で一番高いビュートル山より高い。
正直、王妃選びより、領地の書類処理の方が、
私の中で重要度が高いので、爺がいてくれる事は心強い。
せっかくだから、王都の市やデパートなどに行って、
現在の物価や流行りなんかもチェックしておこう、
領地の物が、実際どうやって売られているか気になるし。
そういえば、領地から王都への道も、整備はされているものの、
実際どの程度整備されているか、実際体験できるいい機会。
執務室にいるメンバーが、
「第一王子、イケメンらしいですよ~、
一目惚れしちゃうんじゃないですか~」
とか言っているのを後目に、私の中では、
領地をいかに豊かにするかに、頭を巡らせていた。