7-3
しばらく泣き続けて、気が付いた時は王子の胸で、
眠ってしまっていたらしい。
気が付いたら、次の日になっていて、
王宮で与えられた部屋のベッドで目を覚ました。
「王子が運んで下さったのです、
そのまま気が付くまで寝かせるようとの事でした。
「そう、ありがとう」
気恥ずかしさはあるが、気分はすっきりしている。
自分の気持ちを全て吐き出して、
それを受け止めてくれる人がいたからだろう。
王子が好きだ。
今ははっきり自覚できる。
多分、ダンスを踊った時には好きになっていた、
そして、甘えるのが苦手な私が、
頼っていい人を見つけて、心が傾いている。
優しい笑顔がいい、冷静な判断、
幅広い知識、次期王として誰からも支持される人柄、
全てが魅力的に感じる。
胸がどきどきする。
あの人の傍にずっといたい。
よく考えれば、領地を治める人間として、
もう必要でなくなっただけで、
また新たな仕事を見つければいいだけなのだ、
簡単な事なのに、領地の運営にこだわりすぎた。
そして、その事を、責める事なく、
愛しているからだよと、優しく教えてくれた。
抱きしめられた体温、心臓の音、
全てが優しく包み込んでくれた。
今まで手を抜いて来た、王妃選抜は後3日、
どこまでやれるか分からない、
でも、後悔はしたくない。
最後まであがいてみよう、あの素敵な人の傍にいられるように。
「爺、私王子の事が好きになったの」
「さようでございますか」
じいは、嬉しそうに微笑んでいる。
「本気で王妃を目指すわ」
「かしこまりました」
爺は丁寧に深く頭を下げる。
それから、王妃の資料を見た時は、
自分の領地と関係ないと思っていたのを、
国全てが自分の領地と同じと考え、意見を出した。
王妃の資料に関わる官吏に、
様々な質問をして、全ての領地に関する情報を頭に入れていく。
とは言っても、元々領地運営をしている時、
他の領地と取引がある関係で、基礎的な知識は網羅している。
少し、自分の持っている知識に足すぐらいで済むのが、
ありがたかった。
「爺は、よく全体を見ないと、領地を正確に把握できないと、
よく言っていたわね」
「さようでございますな」
「私は領地の事だけで、手いっぱいだと思っていたけど、
今となっては、様々な知識を与えてくれた事、
感謝しているわ」
「そう言って頂けてなによりです」
王妃の資料、領地の書類の処理、その後また勉強、
一日中、集中し過ぎたせいか、流石に疲れてきた。
「流石にやりすぎなのでは、気分転換も必要ですじゃ」
「そうね」
「もしよろしければ、爺にリュートの演奏を聴かせて
頂けませんかの」
「いいわね」
気分転換になると、メイドにリュートを持ってくるよう伝える、
そして、懐かしい気分で音楽を奏でていく。
その音色は聞くものを魅了し、
一流の音楽家でさえ、拍手を贈る腕前。
「更に腕を上げられましたな」
「そう?久しぶりだから、そうでもないと思うけど」
「恋を知られたからでしょう、技術に情緒が加わり、更に
深く音を奏でております」
「恋?それで音色が変わるものかしら?
自分では分からないけど、爺が満足ならそれでいいわ」
「お嬢様の演奏を聴ける爺は、国一番の幸せ者ですじゃ」
私は笑いながら言う。
「そんな簡単に幸せになれるなら、確かに国一かもね」
夜が更けるなか、通りがかる者が皆、
思わず足を止めるような演奏が、しばらく続いた。