6-1 王妃選抜 前半(王子サイド)
「シャルロッテ嬢と、エレナ嬢はリタイアされるとの事です」
毒が入った食事の後、侍従から報告を受ける。
「そうか・・・・」
何人かはリタイアになる可能性があると思っていたので、
鷹揚にうなずくだけに留めた。
「キャサリン嬢は?」
「キャサリン嬢は、お付きの者の1人に医者を連れており、
薬を飲んだとの事です」
「テレジア嬢は?」
「レオノーラ嬢が、薬を渡されたようで、
それを飲んで落ち着かれました」
「レオノーラ嬢が薬を?」
レオノーラ嬢は特にテレジア嬢と仲がいい訳ではなかったはず、
「何か条件でも?」
「いえ、ただ差し上げたそうです・・・」
無償で薬を提供する?
レオノーラ嬢は王妃になる事に執着していないとは言え、
駆け引きをするのが普通だ、
それを無償で提供するとは・・・
単なるお人よしなのか、何か狙いがあるのか・・・
「そのレオノーラ嬢は持っていた薬を飲んだのだな」
「いいえ、彼女には毒にある程度耐性があるとの事です」
「そうか」
辺境の地は、海外との交流も多い、
中には良からぬ事を企む者もいるだろうから、
その対策と言う訳か・・・・
元々、シャルロッテ嬢を王妃にするつもりはなかった、
彼女を候補として選んだのは、
彼女が他の候補をどう見るか、測るためだ。
シャルロッテ嬢と会う時は、それぞれの候補が、
彼女にどう対応しているか聞いていた。
エレナ嬢もまた、格下だが国にとって重要な意味を持つ人物に、
候補がどう接するか測っていた。
レオノーラ嬢が、エレナ嬢と繋がりを持とうとしただけでなく、
彼女を励ましたと聞いて、大きく評価を上げた。
「残ったのは、キャサリン嬢、テレジア嬢、レオノーラ嬢、
予想通りの人物だな」
「王子はそれぞれのご令嬢をどう思われますか?」
「キャサリン嬢は、周りに有能な人間を集め、
その人間を使える所は評価は高い、
ただし、自分で考える事は少なく、いいなりになりがちだ、
王妃の資料もほとんど頭に入っていないようだし、
資質としては微妙だな」
「はい」
「テレジア嬢は、毒を飲んで苦しいにも関わらず、
なんでもない風を装った、その意識は高い。
ただし、なんでも正しく考えすぎる、
パーティでワインをかけたメイドでも、
彼女ならそれが法律だからと、50回メイドを叩いただろう」
法を守る事は必要だ、しかし、
ここは王宮だ、清濁併せ呑む事も必要なのだ、
その時、彼女は求めている判断ができないだろう。
「はい」
「レオノーラ嬢は、アップルパイが好きだそうだ」
ふっと笑って答えると、侍従が驚いた顔をする。
「どうした?」
「いえ」
「幼い頃、りんご飴が好きだったと語ったら、
亡くなった母が作ってくれたアップルパイが忘れられないと
話してくれた。
ただ、継母に遠慮して、そのアップルパイを作る事はないそうだ、
レシピはあるそうなので、今度王宮でそのアップルパイを作って、
一緒に食べる事になった。
りんご飴とアップルパイ、2人ともりんごに思い出があって、
不思議な偶然と話したものだ」
話し終わって侍従を見ると、侍従はじっと私を見ている。
「好きなのですね」
「え?」
「レオノーラ嬢の事です」
「好きか嫌いかで決めないと言っているだろう、
必要なのはあくまで王妃としての能力だ」
「アップルパイは能力ではございません」
侍従に指摘されて黙りこむ。
「レオノーラ様と過ごされる時間が幸せだった、
話をしているだけで楽しかった、
そういう事ではございませんか?」
「レオノーラ嬢の能力は人並みだ」
確かに人当たりはよく、格下の貴族とも分け隔てなく接する、
しかし、王妃の資料などは、無難な答えしか返さず、
貴族ならできて当然で、接待に必要なはずの音楽にも、
秀でている訳ではない。
「完璧な人間などおりません、
多少劣っている所があっても、周りがフォローすれば良いのです、
メイド達は、パーティでレオノーラ嬢が庇った事もあって、
彼女を崇拝しています。
彼女は下に付くものにも優しく気遣いを欠かさない、
それでいて、風格があり、自然と尽くしたくなる、
それだけでも、立派な資質でございます」
侍従の言葉に黙り込む。
彼女を好きになっている?
だからといって、彼女を選ぶなんて許されるのだろうか?
王妃には、国の未来がかかっているのだ、
歴史を紐解くと、悪い王妃が立ったため、
周りや国民が苦しい思いをした例などいくらでもある。
侍従がそう言うのなら、確かに彼女に惹かれているのかもしれない、
しかし、自分の気持ちは押し殺して、
冷静に候補達を、平等に評価しよう。
窓から差し込む月の光を見ながら、そう決意した。




