1-2
ケーキを食べ終わり、手紙を持って部屋へ向かう。
部屋と言ってもベッドなどがあるプライベートの部屋ではなく、
執務をする為の部屋。
父親、祖父、曾祖父と、軍人としては優秀だったものの、
文官の仕事は本当に苦手だった。
3代続いて、文官の仕事が滞った上、
家を切り盛りしていた母が早くに亡くなった為、
父親の机の上には手つかずの書類が積まれる事となった。
書類の中には、治水に関するもの、野菜の病気に関するものなど、
民の生活に直結する物もある。
もたもたしている父親を見ていられず、
当時私の家庭教師をしていたオズワルドを、そのまま官僚として雇い、
私が母親代わりに家の事から、
最終的には領地に関する書類を全て捌いてきた。
この部屋はオズワルドを始め、部下数人がいて、
執務を執り行っている。
それまで、優遇されていなかった文官を抜擢して、
待遇をよくして、オズワルドに指導をしてもらった。
そのおかげで、私が執務をするといっても、
ほとんどまとめ上げられた書類に目を通し、
決裁をするだけになっている。
最初、自分で一から書類を作っていた時代を思い返すと、
ほろりと涙が出そうになるぐらいの変わりようである。
「爺、王都に行く事になったわ、
その間よろしくね」
爺こと、オズワルドに軽い感じで報告する。
「おや」
「お妃選びですって」
そう言うと、執務室にいた数人が、そんな~と声を上げる。
「お嬢様が王都へ?」
「そんなのお妃決定じゃないか!」
「この領地はどうなるんだ?」
「おめでたいけど、仕事が増えるのは複雑だ~」
など、好き勝手に言っている。
そんな言葉をひろって、言ってみる。
「ねえ、皆、私が王妃に選ばれると思っている?」
「「「「当然でしょう!」」」」
見事なハーモニーにおおうとのけぞる。
オズワルドも
「まあ、王妃に選ばなければ、王子の目は節穴でしょうな」
と言っている。
これはヤバい。
父親は単なる親バカの可能性が高い、
しかし、オズワルドが大雨が降ると言えば、本当に大雨が
降ったり、その予想は結構当たるのは体験済みである。
盛り上がる執務室の自分の椅子に座り、
とりあえず、王都で作るドレスは、
王子好みから外れた物にしよう、そう決意した。