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朝食、昼食は各自でとるが、夕食だけは王族と共にとっている、
内容は家庭料理のようなものから、豪華な晩餐のメニュー、
はたまた他国の料理や少数民族の料理が出される事がある。
これは、様々な料理に対する、マナーの理解度と共に、
夕食の場を、どうこなせるか試されているのだ。
「今日は月が綺麗だわ、こんな日は音楽が聴きたいわね」
「王宮楽団をお呼びしますか?」
「いいえ、候補達の演奏を聴きたいの」
笑顔で話す王妃、
今日、昼間書類のテストがあったばかりなのに、
夕飯では音楽のテスト・・・
忙しいものだわ。
夕飯を食べ終えて、1時間後、
1人づつ楽器を演奏する事となった。
食事の中で、得意な楽器を伝え、各自アピールを怠らない。
(うーん音楽かぁ)
昼間、王妃様との会話では、領地統治に携わる者として、
仕方なかったとは言え、高評価に繋がりかねない発言を
してしまった。
ここでは、評価は落としておきたい。
本当はリュートが得意なんだけど。
おばあ様の国で盛んに演奏されている楽器で、
上客をもてなす為、かなりの修練をつんだ、
ここでは辞めておいてと・・・。
「私は歌を歌いますわ」
下手ではないが、決して上手いとも言えない歌を選ぶ。
そして、食事から一時間後、
約束の演奏の時間である。
最初の奏者である、シャルロッテ嬢が現れない、
ハープを演奏すると言っていて、
かなり自信ありげな様子だったのに・・・
疑問に思っていると、メイドが現れ、
体調不良の為、部屋で休むとの事だった。
ふと、エレナ嬢を見ると、顔色が悪い、
「エレナ様、どうなさったの?」
そう言うと、エレナ嬢はその場に倒れ込んでしまった。
会場は騒然となり、すぐに医者が呼ばれる。
エレナ嬢はその場を後にした。
(2人も急に体調が悪くなるものかしら?)
そう言えば、私も少し体が熱い気がする、
ただ、体調不良と言う程、大袈裟ではない。
王妃様の指示で、音楽の演奏会は続けられる。
テレジア嬢はピアノ、キャサリン嬢はヴァイオリン、
そして、私は子守歌を歌った。
テレジア嬢、キャサリン嬢の演奏は、
幼い頃から教育を受けていた事を伺わせる、
見事な演奏で、どうやら自分の評価を落とす事に成功したと、
ほっとした。
そして、自分の部屋に戻った時、
メイドから告げられる。
「今日の食事には毒が入っておりました」
しばらく考えて答える、
「毒の耐性を付ける為かしら?」
「さようでございます」
メイドは満足そうに答える。
「演奏ができなかったシャルロッテ嬢と、
エレナ嬢は、ここでリタイアとなります」
「そう」
「レオノーラ様は問題がないご様子、
毒の耐性をお持ちなのですか?」
「私は辺境伯の娘よ、毒の耐性はある程度あるわ」
「流石でございます」
「他の2人は?」
「キャサリン嬢はお付きの者に薬を用意させたようです、
薬を飲んだとはいえ、音楽の演奏はこなしたので、
合格となります。
テレジア嬢もピアノの演奏はこなされましたが、
薬は手に入れられないご様子、今は相当苦しかと」
「そう、それで毒の種類は?」
「キューリツの根っこを煎じたものです」
「そう、ありがとう」
キューリツの根は、毒があり体調を崩すが、
後遺症が残らない為、毒に体を慣らすのによく使われる、
私の症状からみて、効果は丸一日といった所か。
私は毒に慣らしているので、何ともないが、
毒に耐性がないなら、だんだん苦しくなってきて、
今では起き上がるのが辛いほど苦しいだろう。
私は手持ちの荷物から、ほとんどの毒に効く薬を持って、
そのままテレジア嬢の部屋に向かった。
キューリツの根は創作です、実際にはこんな毒は実在しません。