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うーん、エレナ嬢、予想以上に優秀なのでは?
おどおどした態度で、隠れがちだが、
あの数字の導き方は、専門の知識を持つ人のもの。
父親の伯爵とは、パーティの時に話をしたし、
繋がりもできている、しかし彼女自身とも、
交流を深めておいた方がいいかもしれない。
自由な時間に、メイドにエレナ嬢に面会したいと、
連絡を入れてもらった、
すぐに返事が来て、お部屋に来て下さるそうだ。
予定の時間に現れたエレナ嬢は、
いつも通り頼りなく、視線を彷徨わせている。
「ようこそ、来て頂いて嬉しいですわ」
緊張を和らげようと、優しい笑顔で、
おっとりとした声で言う。
それでも、緊張を隠せないエレナ嬢に、椅子を勧めた。
しばらくお菓子を食べてから、ゆっくりと話し出す。
「先ほど、王妃様の質問に対する回答、素晴らしかったですわ」
「私なんて、たいした事ありません」
下を向いて、ぼそぼそと話し出す。
「私、駄目なんです、お父さまにパーティに連れて行って
頂いても、まともに話もできず、
お取引先様とお話ししても、頼りなく思われるので、
駄目だと言われ・・・
何でこんな所にいるのか、まったく分からなくて・・・・」
私は黙って話を促す。
「ずっと変わらないといけないと思っているんです、
でも、変われないんです、
多分、一生駄目な人間のままなんです」
「じょあ、変わらなければいいのではなくて?」
私の言葉に、きょとんとした顔で、
エレナ嬢が私を見つめる。
「周りに迷惑をかけるような人間なら、
変わってもらわないといけないかもしれないけれど、
貴女はそのままで魅力的ですわ」
「え?」
まったく理解できてない顔で私を見つめてくる。
「人には、向き不向きがあります、
適材適所と言う言葉がございますでしょう?
エレナ嬢は人前に出る必要はございません、
それより、事務方、裏で支える仕事をされれば、
一流の人間になれましてよ」
ふっと微笑んで言う。
「ドレスも、古典デザインも最新デザインも、
エレナ嬢には似合っておりませんわ、
しかし、ワンピースドレスなどシンプルな服装をされれば、
とてもお似合いのはず、
無理して、周りに合わせる必要はございません、
エレナ嬢はエレナ嬢なのです、
短所は少し隠すぐらいにして、良い面を全面的に
アピールなされれば、いくらでも輝けましてよ」
「私、このままでいいのでしょうか」
どこかすがるような視線で見つめてくる。
「私はそう思います、
エレナ嬢は才能のあるお方、私が保証致しますわ。
人や社会の役に立つ方です。誇りを持って下さいませ」
そう言うと、俯いてしまった。
「今まで、そんな事言って下さる方、いませんでした、
でも、レオノーラ様のお言葉を支えにしようと思います」
どこか、前向きになれた彼女に、話をして良かったと思う。
その後、王妃の仕事として渡された資料について、
彼女の見解を聞いて、
自分にはない視点からの分析を、深めていった。