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爽やかな笑顔を振りまきながら、王子が去っていく、
その時、
「きゃ」
と言う声がして、メイドの1人が倒れた。
ガシャンと音がして、メイドの持っていたワインが私の
ドレスにかかり、会場が騒然となる。
「謝りなさい」
私はメイドを押し倒した令嬢に、冷たい声で言う。
「なぜ、メイドごときに謝らなくてはならないのかしら、
そのメイドが勝手に転んだのよ」
メイドは床に座り込み、青ざめ震えている。
婚約者候補の令嬢だろう、私が王子に名前を呼ぶ事を
許されたのが気にいらなくて、嫌がらせしたのは分かる。
しかも、それを、全てメイドのせいにする気なのだ。
すぐさま、メイド長が現れ、私の前に膝をつく。
「申し訳ありません、どうかお許し下さい」
「このメイドの罰はどのぐらいかしら」
メイド長は少し逡巡した後
「棒叩き20回程で・・・」
「20回?」
それを不足と捉えたのだろう、メイド長が
「いえ!50回にいたします!」
と訂正してきた。
棒叩き20回だと、一生残る痕が残る、
50回だと、下手すると死んでしまうかもしれない。
メイドを押し倒した令嬢を見ると、にやにや見ている、
人、1人死ぬかもしれないと分かって、
しかも自分が追いやって、笑っていられるなんて・・・
自分の中で何かが弾けた。
押し倒されたメイドを見る。
「貴女、名前は?」
青ざめているメイドは、震えながら、何とか名前を言う。
「ロザリーと申します」
あら、継母と同じ名前、なおさらほっとけないわね。
「ロザリー貴女は祝福をくれたのね」
その言葉に、意味が分からなかったのだろう、
周りにも沈黙が落ちる。
よく見れば、パーティ会場の全員が、この場を注目しているのが
分かった。
「ワインの神、バッカスの像には、ワインをかけ、
豊作を願い、幸せを願うわ、私にワインをかけ、
祝福してくださったのではなくて?」
その言葉にメイド長が叫ぶようにいう。
「その通りでございます、神のように神々しく、
容姿だけでなく魂まで美しい、貴女様に、
この世界全ての祝福を捧げます」
そう言って、メイドの頭を押さえ、礼をする。
「祝福をくれた者を罰する事はできないわね、
もういいわ、おさがりなさい」
その言葉に、とうとうメイドが泣き出した、
声を出さないように、必死で抑えているのが見える。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
そう繰り返して、メイド長に支えられ去っていく。
私は会場全体に向かって、優雅にカーテシーをする、
会場からは割れんばかりの拍手が送られた。
視界の端には、悔しそうにしている、
メイドを押し倒した令嬢が目に入った。