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6.かけらたちとの日常

 二週ほどの間、穏やかな時間が流れていた。シュウは正式に祖沖へ引っ越すことを伝え、設計図と建材が手配されるまで自宅待機となる。

 シュウが手続きやら何やらに忙しく動いている傍らで、葉茅は他のかけらたちと出会い交流を持っていた。


「ロン!」

「あっちゃー、字牌の単騎かよ」


 読みにくい待ちに振り込んだエナは頭を抱えつつ点棒を相手に支払う。


「勝負強いなピエット。賽の博徒、っていう二つ名は伊達じゃねえな」

「そう褒めるな。手元が狂っちまう」


 ピエットと呼ばれた崩し気味の着物に角刈りの男は少しだけ口の端を緩めながら牌をかき混ぜる。ギャンブルは出来るのかとシュウに聞いたところ紹介されたのが彼である。

 博徒と名乗っているだけあり、賭け事になりうることならばほとんどが手の内らしい。実際、麻雀の前に花札をやっていたのだが葉茅はいいようにやり込められてしまっている。


「嬢ちゃんこそやるじゃねえか。さっきの混一色は完全に不意打ちだったぞ」

「たまたまだ。流れは常に移ろうもんだろ?」

「麻雀に向いてそうな考え方してるぜ」


 苦笑いを浮かべる。戦いにおいても一対一でこそ勝負強さを発揮する男は誰かを利用して戦うことは不得手である。

 一方、卓を囲んでいるもう一人は会話に加わらず淡々と山を作り始めている。


「……」

「もうちょっと何か言ってくれよ」

「……出来たらね」


 最初に闇の伏兵エイトと名乗った藍色の髪をした少年はそこからほとんど話そうとしない。エナが促さなかったら、それすらしなかったかも知れない。


「まあエイトに無理はさせねえでくれ。口数は少ねえが良いやつだからよ」

「気にしてねえよ。和気あいあいの形もそれぞれだろうしな」

「……助かる」


 少年はかすかに頷いて、手元を整えると他の相手を待つ。


「他には誰が強いんだ?」

「ヌェジェが案外強いな。酒飲みでもあるし、戦い以外なら一通りこなせる」

「フェムのとっつぁんも味があるぞ。ヴィーアやセレフトー辺りは賭け事に向かねえし当人たちも興味を持ってねえ」

「あたしは下手の横好きだな。雰囲気は好きなんだけどよ」

「そんな感じはしてた」


 おどけて言う葉茅をエナがその頭を軽くはたく。性格的に近いこともあってかすっかり気の合う仲となった。


「……リーチ」

「は? ダブルリーチ?」

「出やがったな。そういうのに恵まれてるからこいつとはやりにくい」


 ぼやくピエットを笑う間もなく、まんまと倍満に振り込んでしまい頭をかきつつ牌をかき回す。

 結局その半荘は手堅く立ち回ったピエットが一位となり、葉茅はラストでエナが振り込んでくれたおかげでかろうじて最下位を回避した。



 違う日には、別のかけらが露店を出すというので付き合っている。


「お祭りともなると華やかでよろしいですな」

「まあな、俺もこういうのは嫌じゃない」


 満面の笑みを浮かべる祖沖の傍らではっぴ姿の葉茅も手を動かす。出店許可は祖沖が取っているために、かけらと葉茅はその手伝いという体裁である。


「祭りでなくとも商売したいとこですが、やむを得ないです」

「ホー君は中々真価を発揮できていないからな」

「もう少し稼がせてほしいですよ」


 ひょろ長い体をした薪の商家、ホーは大きく頷く。やはり名の通り商人である彼は普段から祖沖の手伝いをして生活費の調達にあたっていた。もう一人分の稼ぎも必要になったことから焦りがないと言えば嘘になる。


「俺のせいで手間を掛けちまってるな」

「あなたが謝ることでもありません。こうして進んで手伝いもしてくれますから」

「エナやヴィーアに手伝いは向かなそうだしな」


 出来ない人が多すぎなのが問題なんですよねえと相槌をうつ。焼きそばやたこ焼きなどの食べ物ならばヌェジェが手伝ってくれたりもするのだが、あいにく今日はわたあめの屋台である。


「葉茅くんが来てくれて一番嬉しいのはホーくんだったりしてな?」

「何でも出来る人は貴重です」

「俺は何でも屋じゃねえぞ」


 そんなことを言いあいつつ、作ったわたあめを袋に詰めていく。


「葉茅くん、手つきがなれているね」

「ん、いや、何となくやってるだけだ」

「幼い頃にお手伝いでもしてましたか?」

「そんなガラじゃねえよ」


 言いつつもてきぱきと袋詰を終えて表にぶら下げていく。


「キャラモノも種類が増えたもんだな」

「いや変わらないでしょう。バリエーションが豊富にはなったでしょうが」

「そうかもな」


 準備が終わって店を開くとぼちぼち客が買いに現れるようになる。縁日としてはそこそこの人出で子供連れの客も多く、わたあめの売れ行きも順調だった。

 一息ついた辺りでシュウとアイネがナナシを連れて浴衣で現れる。傍から見ると完全に親子にしか見えない。


「何だよ、冷やかしならお断りだぜ?」

「そう言わない。お手伝いできない分売上に貢献しないとね」

「あなたこそそうしてないで手を貸して欲しいんですけど」


 ホーはため息をつく。こういうときに彼は逃げてばかりだと愚痴を述べると、葉茅がアイネに耳打ちする。


「お前だけ先に帰れ。ナナシは俺が引き受けるから」

「えっ」

「良いから帰れ。俺にも遊ばせろ」

「なるほど」


 かすかに微笑んだ彼女はナナシを預けると隠れるようにシュウの影に戻る。まさか人前で帰ってしまうとは思ってなかったシュウは焦った。


「ちょっと葉茅」

「お前に店番やれとは言わねえが誰かと交代くらいさせろ」

「ですねえ。葉茅さんも年頃の女の子ですし、真面目にここまで働いてくれましたからね。少し席を外してくれて構いませんよ」

「ホーがそう言うのならやむを得ないね」


 そう言うとアイネの代わりにピエットを呼び出して店番を任せ、ナナシをおんぶして歩く葉茅と共に神社に参拝する。


「神社に願い事でもあるのか」

「君こそどうなの?」

「まあな……悪魔に言うセリフでもないがよ」

「大丈夫」


 僕は根っからの悪魔でもないし平気だよ、と笑う。悪魔として作られたのは間違いないが、そんなのは他人が決めたことであって自分が違うと言えば違うのだと。


「じゃあ、俺が自分を悪魔だと言ったら悪魔なのかよ」

「あなたがそう言うのならば相応の相手をしますよ」

「止めとく。人間であるほうが楽だ」


 葉茅はカラッとした笑みを浮かべ、シュウも困ったような微笑みをし、背中にいるナナシも楽しそうな声を上げた。


「どうする葉茅、出店で焼きそばでも買っていく?」

「たこ焼きが良いな。ホーにも差し入れしてやらねえと」

「気が利きますね」

「全員にしてえけど、お前を破産させるのも忍びないからな」


 少女は足取り軽くたこ焼き屋に向かった。


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