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Turn her down if you don’t like.

「……どんな状況だこれ?」


 放置ついでにお茶菓子、というかつまみのナッツを取りに行って戻ってきたら、ノウドの上着を丸かぶりしている従妹がいた。ノウドは咳き込んでいる。

 壁役も帰ってきたし、とキャルメリアが借りた上着を膝の上で畳んで返した。

 それからは顔は見れずとも、スティーフの介入なしで話せるようになっていたから。





「じゃあそろそろ出るか」


 スティーフが時間を確認した。


「今日は有益なお話が聞けました。ありがとうございます」


 間違いなく、確実に、社交辞令。キャルメリアはノウドの先輩の親戚だから。


「そんな……変な話ばかりですみませんでした。今夜は飲みに行くんですよね、楽しんでください」


 一足先に家を出ようとした。急げば日暮れ前には家に着く。スティーフがそれを引き止めた。


「家に帰るだけだろう? 送っていく」


 同席しているノウドに一言もなく、というのは失礼だろう。ところがノウドも当然のような顔でいた。


「大人なんだから、一人で帰れるわ」


 子供扱いだと断ったキャルメリアに、ノウドが訂正する。


「あなたが大人の女性だから、帰りをお守りするのですよ」


 そんな言われ方をされては、素直に聞くしかない。頬を染めるキャルメリアに、スティーフが口端を上げる。


「ノウドお前、淡白に見えて俺より気障(キザ)になるんだな」


 軽薄なのはスティーフの専売特許。ノウドは正反対のはずだ。


「気障って……俺たちは腐っても騎士でしょうに」


「『弱き者、武器を持たぬ者を庇護する』ってな」


 べっ、とスティーフは舌を出して見せた。従妹の手前の照れ隠し、かもしれない。

 二人の騎士に守られながら、姫は無事帰宅した。


 てっきりキャルメリアはノウドと満足に話もできずに恋破れると予想していたのだが、スティーフの読みがいい方面に外れた。

 会話は途切れとぎれでも、間に流れる雰囲気はぎこちなくはない。やや緊張感はあるが、初々しいというか。なによりキャルメリアがスティーフにくっつかずに男と話している現状には一種の感動さえ覚えた。


 もしかするともしかするかもしれない。





****





 酒場には王立第二騎士団の連中が揃った。新婚の団長を除いて。彼が十余年来の恋を実らせ、しばらくは仕事以外では家庭にかかりっきりになることはみなが承知している。

 というわけで、今夜は年齢関係なく無礼講だ。


「へぇ、ノウドもキャラメルちゃんに会ったんだ」


 ジャンがにやりとした。なんとも甘ったるそうなあだ名をつけるものだ。


「キャルメリア殿のことか?」


「そう。キャラメルみたいじゃん、髪色」


 従兄であるスティーフの頭を見て、そうかと納得した。


「どうだった? オレのときまったく話してくれなかったんだよな。キャラメルちゃん、って呼んでも無反応」


 ジャンがスティーフの実家を訪ねたときに、偶然鉢合わせした。かろうじて「こんにちは」だけは聞けたが、これまたスティーフを盾にして、会話に参加しなかったらしい。用事があったのはスティーフだし、彼と話すだけで事足りたのでそれっきりだと。


「話せたし、存外に軽口の通じるお嬢さんだった」


「おおぅ、まじで。話せたんだ、ふーん」


 ジャンは羨ましそうだ。同期騎士のシャーロが早々と結婚してしまったので、影響されて恋愛面に興味が向いているのか。


「俺の血縁なのだから顔は悪くないだろう」


 スティーフは一口飲んだ酒を置いた。ノウドは彼女の風貌を思い出そうとしたものの、記憶があやふやだった。


「さぁ。顔を見られるのは嫌そうだったから、あまり注目していない」


「惚れた理由が『聖女護衛のかっこいい騎士さまだから』であれば俺だって仲介しない。従兄の俺を得意げにもしない奴だ」


 騎士団寄宿舎に押しかけるお嬢さん方のように媚びることもなく、過剰な好意を見せてきたりもしなかった。そもそも彼女の恋心を暴露したのはスティーフだ。キャルメリアからはとくになにを褒められるでもなく。人見知りもあるのだろうが、心底感極まって、といった具合だった。


「振るなら早めにしてくれ。傷は浅い方がいい」


 厳しい声音に、ノウドは酔いが醒める思いがした。


「そういうつもりでは」


「あいつが一対一で話せる男はめったにいない。できるなら前向きに考えてくれ」


 考えろと言われても、会ったばかりで曖昧な感情しか持ちえない。はっきり嫌だともがんばるとも答えられなかった。


「なに、お見合いしたってこと?」


「キャルメリアがノウドに一目惚れしたから引き合わせた」


「ひょー。見る目あるじゃん、キャラメルちゃん」


 ジャンがグラスを差し出すので、ノウドも自分のものを打ちつけた。気のせいか酒の味が薄い。握っていてグラスがぬるくなってしまったからだろうか。

 目線を上げると、スティーフがよそ見をしている。その先には、給仕の女性の首元。そして地面。その動きは周囲をぐるりと見渡したのと変わらない。


 ーーうなじ、足首フェチ……。


 これでそう言われてしまうのだから、キャルメリアは容赦がない。



Turn her down if you don’t like.

(嫌ならなら振ってくれ。)


明日から2話ずつ(13時)投稿になります。


補足。

騎士団員メンバーは基本お互い名前呼び捨てです。あんまり年齢離れてるとさん付けだったり先輩呼びだったりします。


スティーフのために言っておくと、女性たちをちらっとは見てしまうけど、声かけてお持ち帰りとかはしないし、見るのも対象にも同僚たちにも気付かれないくらいです。

セクハラと言われてしまえばそうですが……倫理と社会規範は守りますよ! 騎士ですし!


↓騎士の信条一部抜粋。

To refrain from the wanton giving of offence.

理由なく法を犯さず

To live by honour and for glory.

誇りと名誉によって生かされる

チラ見くらいいいじゃない……美形いたら見ちゃうじゃない。


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