Back to our hometown.
スカエ・クロア王国にはひっそりと帰国できた。首都に入っても、キャルメリアが指さされることもなく。ひとまず彼女を実家に送った。
ペリベイルの門番はおかえりと声をかけてきてくれて、ノウドの不在の理由も問いかけることなく通してくれる。騎士団寄宿舎に入るのでも軽く済んだ。
しかしそのぶん王立第二騎士団団長の眼光は鋭かった。
「目的の人物は見つけたのか」
これには力強い肯定を返した。
「はい!」
「ならよし。すごすご諦めて帰ってきたのなら気合いを入れてやるつもりだったからな」
気合いという名の拳をな、と肩に手を置いて、団長ウクドリッドは笑う。
「手紙では失礼をしましたが、こうしてご挨拶できてよかったです。私物を引き取りにきました」
「なに言ってるんだ、すぐに復帰してもらうぞ」
「それは、……? どちらに」
雑用か。はたまた見習いから根性を鍛え直されるか。
「王立第二騎士団に決まっているだろう」
なぁ、と副団長のスティーフに振り返ると、「はっ」と肯定があった。かと思えばノウドに向かってあごをツンと上げる。
「だってお前の有給休暇ぶっ込んだもんよ。一ヶ月ぶん。もう今年は休ませないからな?」
それはそれはスティーフはにこやかだった。
「スティーフは、すべて見通していたんですか……」
焚き付けたり、煽ったりなんかもして。
「それはお前、わかりやすーくキャルメリアに惚れてたのに悩んでるのが意味不明でむかついたから」
「どの段階で惚れてると?」
「キャルメリアに話しかけた瞬間から。俺の従妹だから気を遣ってたのかも知らんが、女と会話をもたせようとするお前は珍しかった。女の相手しててあれだけ笑うのもな」
ぐうの音もでずただ耳まで染めるノウドを、いい気味だと眺める。
「叔父夫婦が帰ってきたことだし、俺も祖父に会いに行くから。後はよろしくな」
そう、軽く全てを投げてよこした。
スティーフが出立してしまう前に済ませることは済ませなければ、とノウドはキャルメリアの仕事場を訪ねた。しかし呼び出してもらうのは恋人ではない。彼女は荷解きのため実家にいる。
ほとんどキャルメリアの居場所の答えのような情報を教えてくれたタトロックに地図を返しに行くと、彼は驚いていた。
「キャルメリアを見つけたんだね」
「はい。おかげさまで。この地図には大変助けられました。ありがとうございました」
「律儀だな、きみは。こんな襤褸の地図なんて用事が済んだら捨ててもよかったのに」
「きっと、頻繁に使っていらっしゃる大切なものだとお見受けしましたので。区画も道も変わって現在は実用的ではないはずの地図をあんなにすぐに取り出してくださった」
地図は、お守りだったから。徐々に凶暴さに拍車をかける魔に追いかけられながらも、スカエ・クロア王国を目指したホルン兄弟とその家族を導いてきた。辛い局面にあれば地図を開き原点を思い出す。ここまでの道のりを。乗り越えてきた感情を。途中で失い、また生まれた命を。
その全てに、この青年は敬意を払ってくれた。
「ホルン家はきみを歓迎する」
タトロックのほうから握手を求める。
「どうも……? ああ、俺はノウド・スシュッテルトです。
失礼ですが、あなたは」
一瞬目を瞠ったものの、がっしり握る。
「タトロック・ファン・ホルン。スティーフの父で、キャルメリアの伯父です」
眼鏡の奥でわざとらしく片目をつむる表情は、息子と瓜二つだった。
Back to our hometown.
(私たちの町へ。)
エピローグですね。
次話は性的な(軽めの)R15なのでご注意ください。、