リックとミゲルの話
ゆるふわ設定でありますが楽しんでいただけたら幸いです。
母さんは妖精と友達だ。だから俺が生まれる時に妖精が祝福を授けてくれることになった。
「子供の祝福は何がいい?」
「歯並びよくして!」
もっと他にあっただろう、もっといいのがあっただろうと、その話をはじめて聞いた時は思った。
昔は人と妖精の交流が盛んで妖精の祝福を持っている人はたくさんいたらしい。
でも今は祝福を持っている人はほとんどいない。それは妖精との交流ができる人が減って祝福をもらえる人が減ったということらしい。そんな現代で数少ない妖精の祝福を持っている人というのが俺たちきょうだいだった。
俺たちきょうだいは母さんの希望の通りに「良い歯並び」という祝福をもらった。もっといいのあったじゃん。運動神経よくとか、勉強ができるようにとかイケメンに。なんて思ったが仕方がない。
仕方がないのだが、同じジュニアハイスクールに妖精の祝福をもらったやつが他にもいたのだ。これはかなり珍しいことである。今の時代祝福持ちは学校に一人いれば隣の学校のやつだって知っているような有名人だ。そんな俺たち祝福もちだがミゲルは俺を小馬鹿にしたように「お前の祝福だっせ」なんていつも言うのだ。俺が選んだ訳じゃないのに毎回そんなことを言う。そして、毎回そんなことを言うやつなのであまりクラスメイトにも好かれているようなやつではない。でも、あいつの祝福は「強い体」で運動なんかいつも学校で一番で性格はよくないけどみんなが一目おいているようなやつなのだ。
絡まれていた俺をみて友人たちは「わかるよ、羨ましいよな」なんてわかったように慰める。うるさい、お前たちより遥かに整った歯並びを見せてやろうかなんてやけくそになって言ったら「本当か!」なんて悪ノリしてきたのでやめた。
学校を卒業するまでミゲルの絡みは続くのだろうか。そんなめんどくさい気持ちと慣れてきて右から左へと流すスルースキルがあと三ヶ月くらいした完全に身につきそうだからなんとかなりそうという気持ちがあった時だった。
学校の課外学習があった。それでオリエンテーションで近くの林を散策するということがあった。
何か特別なことをした訳ではない。みんなで林の整備された遊歩道を散策するといったもので何か危険があった訳ではない。ただ、その時何かと調子に乗っていたミゲルが足を滑らせてしまった。落ち葉や木のチップでふかふかの坂だったがミゲルは勢いよく転がっていった。そしてその林で一番大きな木に激突したのだ。その木はみしりと嫌な音をたてて一部分が欠けた。が、ミゲルは傷ひとつついていなかった。服はボロボロで所々破けていたがミゲルは無事だった。喜ぶべきことだっただろう。しかし、その場にいた全員が肌で感じてしまった。
ミゲルだったから無事だったんだ、と。
普通の人がミゲルと同じように転がっていったなら骨を折るなどといった大怪我だっただろう、救急車だって呼んだだろう。そうなってもおかしくない衝撃音だった、勢いだった。ぶつかった木の欠け具合をみれば相当の衝撃だったと想定するのは簡単だった。でも、何もなかったかのように振る舞ってどこも怪我をしていないミゲルを見てクラスのみんなが、先生だってミゲルに対して以前のように接することは無くなった。距離を置いて腫れ物を扱うかのようになった。
俺はミゲルことがあまり好きではなかった。以前からの意地の悪い言動や態度が関わっていた。そういうこともあってかあんな事故があって孤立しはじめているミゲルと仲良くしようという気持ちはなかった。
しかし、みんなに腫れ物のように扱われて孤立していくミゲルを見て思った。
いや、そんなふうに扱われているミゲルを見てようやく考えることができたのだ。どうして母さんが俺の祝福を「歯並び良く」というものにしたのかということを。ミゲルがああなって心底この祝福でよかったと俺は思ってしまった。
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