ヒロシマのラジオ
焼け焦げたラジオが資料館に展示されている。
隣には中身が消し炭となったアルマイトの弁当箱。
アルマイトなんて言葉、もう風化てしまっただろうか。
そのラジオは入館者の途絶えた夜中に、音をたてたりはしない。
突然警報を聞かせることもない。
人々のうめき声で飽和してしまったのだろう。
黒く長く延々と伸びる爪。
体内から出てきた、血に曇ったガラス片。
剥がれ落ちた皮膚をぶら下げる人形。
コンクリートの壁に残った影法師。
死体はその前には見つからなかった。
一瞬にして蒸発してしまったのだから。
その影も、もう、薄れて見えなくなってしまった。
荒々しい轟音と、上昇気流に黒い雨。
水を求めて彷徨いながら、死にながら
人々は、何が起こったか知りたかったろうに。
何がどうしてこうなったのか
誰から何から家族と自分を守ればいいのか知りたかったろうに。
ラジオは壊れ飛ばされ瓦礫の下、転がり落ちて七つの川へ。
焼けた身体と喉の渇きを癒そうとした人々の、死体を追って水の中。
川の流れと満ち潮、引き潮、ころりころりと海底へ。
あの日のラジオは何も言わない。
資料館にあっても水底にあっても
何十年精霊流しを重ねようとも。
核の悲劇を知ろうとしない人々が過ちを繰り返してしまったとしても。