第9話 ジャンキーの借金返済計画
実は俺は若い頃、若気の至りでプッシャー、要するにヤクの売人をやっていた事があるのだ。
胴元は儲かるが末端は大した儲からない上にリスクが高すぎて最終的に飛んだが、動く金は相当のものなのだ。
商品はすでに有る。
ヘンリーがやってくるまで、スキル成長促進と交配のレベルを更に上げ、長老のアサ畑から拝借したアサの枝をクローン化し、より強力な株の育成に成功している。
原理は至って簡単だ。
強い株を生み出したのち、強い株同士を交配するとより強力な株が一定のパーセンテージで出現する。
何度か交配を繰り返し、成長促進で株を急激に育て、それを数回繰り替すことで俺の育てたアサの薬効はなんと【SSS】トリプルエスという意味の解らないレベルに達していた。
このトリプルエスの株同士をしつこく交配してみたが、それ以上になることは無かった為、恐らくアサの薬効に関してはレベルをカンストしてしまったのでは無いかと思っている。
試しに吸ってみたが、日本で手に入ったオランダアムステルダム産やアメリカ西海岸産の最高レベルのマリファナと比べても全く遜色無いどころか、もしかしたら俺の記憶の中で最もすばらしいマリファナの栽培に成功した可能性すらある。
アリーの父親の借金を返すために、このアサを都会で売る、というのが俺のプランだ。
どうもポルケ村で吸われている木こりタバコは、種が付いた花弁がベースになっているようだったので、畑の一角を隔離して種の無いアサの花弁、いわゆるシンセミアの栽培にもすでに成功している。
主に娯楽用として流通するマリファナは雌株だけだ。その雌株でも種が付いたものは種に栄養分を送ってしまうため、THCというマリファナの成分が少なくなってしまう。
シンセミア、というのは阿部和重の小説ではなく、雄株を隔離して、種が付いてない雌株のことである。
そもそもアサを売った所でこの世界にそれを罰する法律は無い。
よって俺の行いは合法なのだ。
さらに木こりタバコに関しては都会には一切知られていない田舎だけの楽しみだということもアリーから聞き出した。
さらに、スキル調合を利用して、アサから快感成分とリラックス・鎮静成分を分離することにも成功した。
予想どおり、マリファナ同様アサからは快感を感じる成分THCと、リラックス・鎮静・鎮痛効果のあるCBDなどの各種成分が同様に含まれており、主にTHCのみを分離してドロドロのワックス状にしたものと、CBDのみを分離したワックスを用意した。
CBDはドラッグとして利用するものでは無く、あくまでクリアなリラックス感や鎮静・鎮痛の効果を期待するものだが、てんかんの治療や様々な病気にも利用できる優れた性質を持っている。
特に女性などに向けて化粧品などに配合していたり、マッサージオイルなどに利用されていたりと、販売層をより広くする為に役立つと踏み、アリーとの散歩で見つけた薬草などと調合する事でマッサージオイル、化粧品などの製品開発はすでに完成している。
基本的に商売は商売敵がいると値下げやらなにやらの過当競争が始まる。
220万ゴールドの大金を生み出す為に必要なのは競合がいない独自性の高い商品だ。
都会では木こりタバコは知られていない。
しかし冒険者やアウトローなど、好奇心の強い連中はきっと木こりタバコに飛びつくだろう。
最初は冒険者ギルド、評判の飲食店の前や娼館の前などで無料配布し、食いついてきた客相手にコツコツと販売を伸ばす方針だ。
価格は1グラム50ゴールド。2グラムで100ゴールドを手に入れる訳だが、末端価格で500万ゴールド程度のブツは徹夜の成長促進ですでに用意済みだ。
そんな事を考えていると風呂が沸いたらしく、アリーがやってきた。
「お風呂が沸いたわ」
「うん、じゃあ一緒に入ろうか」
実を言うと、一週間程度のアリーとの暮らしの中で風呂は一緒に入っている。
俺が一人で入っていてもアリーが乱入してきてしまうので、諦めて最初から一緒に入るようになってしまっていたのだ。
もちろん欲望はとめどなく溢れ、理性がふりきれ過ちを犯したいと思ったことは一度では済まない。
しかし、アリーとヘンリーの問題を解決する上で、俺は一つの覚悟をキメたのだ。
借金を返し終わったらやる。やってやってやりまくる。
最初は昔の女での苦い経験などを言い訳にし、アリーを遠ざけていた俺だが、ジャンキーというのは総じて意志が弱いものだ。
意志が強ければ中毒などしない。するわけがない。
そんなクズがうら若き美少女の裸を毎日拝んで我慢ができるはずなどないのだ。
俺は快楽に関しての一つの真実を知っている。
ドラッグについてもそうだし、セックス、食事、ともすれば排泄といった快感の絡むすべての行動と最も相性の良いのは我慢である。
尿意もよおすくだらない会議の後の放尿。
空腹でかきこむ食事。
半年間自慰を経ち、その後に行う自慰。
散々我慢を繰り返し、そして最終的に欲望を叶えた時の快楽は安易に手に入れた快楽とは比にならない。
俺は快楽主義者だ。
どれだけのチート級の能力を持っていようが、つまるところそれを快楽に昇華する事が今生の使命だと思いたい。
これから借金返済までの間、性欲を抑えに抑えて果てよう……。
そんな事を考えていると一糸まとわぬすアリーが俺の腕を掴む。
「ねえウィル、冷えちゃうわ。早く」
そういうことなので、じゃあ、行ってきます。
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