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ダメ。ゼッタイ。人間やめますか?いえ、ODで死んたので異世界で麻薬王目指します!  作者: 朗童舎
第一章 ジャンキーの借金返済 マリファナ編
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第3話 ジャンキーと薄幸少女

 奴隷商人を殺せと叫んだ少女がよろけながら駆け寄り、高くてか細いハスキーな空気成分たっぷりのウィスパーボイスで言う。


「ごめんなさい。でも、本当にありがとう」


 年齢は俺と同じくらいだろう。顔立ちの整った少女は、ボロを着て首枷と手枷をされている。儚げで華奢な体躯には似つかわしく無い、意志の強そうな目をしている。


 さて、さっきは盗賊と奴隷商をぶっ殺してしまった訳だが、この少女も悪党なのだろうか。だとしたらこの世界は全員悪党の結構ヤバい世界なのではないだろうか。


 念の為少女を鑑定で除くと(無職:アリアル・ハイマン 16歳)と表示された。無職か。なら大丈夫だろう。


 少女は大きく息を吸って吐き出す。再び俺の目を見て言った。


「あなた、名前は?」


「イケ、いや、ウイリアム・ホフマンって言うんだ。なんていうか、よろしく」


「ごめんなさい、助けてもらって。状況がよくわからないと思うけど、あたし達、奴隷商人に攫われてしまったの。本当に助かったわ」


 なんとなく状況が飲み込めた。


 先程は悪党が悪党に襲われるという、まさに因果応報な出来事だったようだ。


「良かったよ。倒した連中もみんな悪党みたいだったし」


 はじめての人殺しに一抹の罪悪感を感じたが、どうやら罪の無い少女達を助ける事が出来たことが解ったので良しとする。


 しかし、これからどうするべきなのだろう。最初はハーレム展開などと浮ついたことを考えていたが、人を数人殺してしまったことで浮かれた考えは全く消えてしまった。


 この少女たちはこれからどうするのか、そして俺はこれからどうするべきなのか。


 ひとまず少女たちに装着された枷をどうにかするべきだ。中には大分幼い子もおり、いたたまれない。


 チートな能力でこれらをどうにかすることが出来ないかと考えていると、例のピッ、という音が脳内に響いた。


『聖魔法アンチェインで拘束を解除可能』


 なんとなくそれっぽく手をかざして念じてみると、カチャッ、という音とともに少女たちにはめられていた枷が外れ落ちた。


 ひとまず少女たちはこれで大丈夫だろう。


 転生初日で色々と有りすぎた。めちゃくちゃ疲れた。なんかキメないとやってられない。 

 

この世界で手に入るヤクをなにか探しに行かないとやってられない。今すぐにキメたい。


「じゃあ、大変だったね。俺はこれで」


 と言って踵を返すと、アリアルという少女が俺の袖を掴んだ。


「あの、助けてもらって、これも外してもらって、図々しいとは思うんだけど……、お願い、私達を守って欲しいの」


 美しい少女の潤んだ瞳にじっと見つめられてしまうとなかなか断れるものではないが拘束も解いたのでなんとか出来るでしょ。


 俺は早く何かキメたい。この世界でぶっ飛べるネタを探しに行かなくてはならない!


「ほら、拘束も解いたし、もう大丈夫じゃない?」


「この道には盗賊やモンスターが沢山いるの。私以外の皆はここから割と近い村から来たの。だからそこまで。お願い」


 確かにこの世界の治安は日本とは比べるべくもない位に悪く、きっとブラジルのファベーラなんかよりもダントツでヤバいのだろう。


 そういえば半径200mで強盗にあう確率150%、バスの乗客全員が強盗という伝説の国、南アフリカ・ヨハネスブルグ級にヤバいのだろうか。


 流石にそんな場所をうら若き少女たちだけでなんとかしろ、というのも酷な話だ。


「解った。じゃあその村まで案内してくれれば一緒に行くよ。でもさ、俺馬車なんて運転した事無いぜ?」


「私が馬を走らせるから、あなたには護衛をお願いしたい。あなた、びっくりするほど強いみたいだし」


「馬車がなんとかなるならいいよ」


 そう言うと少女はほっとした表情を浮かべ、手を差し出したので手を握り返す。


「私、アリアルよ。アリーで良いわ。宜しく、ウイリアム」


 *******


 馬車を走らせていると、アリーが俺に護衛を頼んだ理由がすぐに解った。


 まずはモンスターだ。巨大な狼や熊の様なモンスター、定番のスライムやゴブリン、などなど。


 確かに非力な少女達では相手にはならないだろう。


 チートっぽい能力を持った俺からすると大した相手では無かったが、獣臭さやでかい鳴き声は迫力満点だ。

 

 さらに、小1時間も馬車に揺られていると再び盗賊団の襲撃にあう。噂のヨハネスブルグほどでは無い。だがいい勝負だ。


 連中はたいてい藪に潜んでおり、馬車がやってくるのを見つけると突如、藪から飛び出して来るというのがお決まりの戦法だ。


 結果、三度の盗賊の襲撃を撃退した。


 投石の威力はよく解ったので、一度目の襲撃は素手で撃退を試みる。するとどうだ。相手が粉々に吹き飛んでしまうではないか。


 返り血や肉片を全身に浴び、貨車の少女たちをガン引きさせてしまった。デコピン程度でも相手を倒す事ができる事がよく理解できた。


 二度目の襲撃に関しては防御力に関して実験をすることにした。


 武器を持った悪党から攻撃を貰うのは流石に躊躇したが、刃物の攻撃も不思議な力が働き盗賊の攻撃程度であれば傷一つつかない事が解った。


 三度目の襲撃に関しては武器を試すことにした。念じることでアイテムボックスから武器を取り出して使う事ができる事が解ったからだ。


 ガチャであたったのは、両手剣カラドボルグという武器だ。


 やたらと大げさに神々しい光を放つその剣を一振りしたところ、たちどころに盗賊たちも馬も全員真っ二つ。


 さらに周囲の森の木を数十メートル程度、真っ二つになぎ倒してしまった。


 武器を手に入れる機会があればもっと弱い剣も手に入れるべきだろう。この武器はオーバースペック過ぎるし何よりも自然環境によろしくない。


 三度目の襲撃から2時間程度馬車を走らせると、目的地だったポルケ村に到着した。


 日は暮れていたが、村に馬車で乗り込むと続々と村人が集まる。攫われた娘たちが帰ってきたことに気づいた村人の呼びかけに集った家族たちが歓喜の涙を流した。


 長老と思われる老人にアリーが事情を話す。その後老人は俺の両手をしっかりと掴むと言った。


「これはこれは。誠にありがとうございました。ウィリアムさん。もう夜も深いので、是非この村でお過ごしください。あなた様が滞在したいだけこの村にいてくださって構いません。できる限りのおもてなしをさせて頂きますゆえ」


 これからどこに行くかなんてさっぱり考えていなかった。長老の提案にありがたく便乗させて頂くこととする。


「じゃあ、お世話になります。ありがとうございます」


 助け出した少女達は各々が自分の家に戻っていった。アリーだけが帰る場所が無いらしく、俺と一緒に長老の家に世話になる事になった。


 長老の家は村中央の太い通りを北側に奥に進むと突き当りに有る、ちょっとした集会場の奥に建っている。他の家に比べるとひときわ大きい家だった。


 促されて長老の家に入る。癖で靴を脱ぎそうになるが、この世界では土足がデフォルトの様だ。水虫にならないか心配だ。


 広間に通され、アリーと並んでソファに腰掛ける。久々に尻に柔らかさを感じて安堵する。馬車の座席は木製なので尻が痛かった。


 向かいに腰掛けている長老が落ち着いた声で、やい、婆さんや、と声をかけると、老婆がやってきた。恐らく長老の奥さんだろう。


「お客人に食べ物と、風呂の用意を頼むよ。アリアルさん、ウィリアムさん、お酒は飲まれますかな?」


 万国共通の合法ドラッグアルコール。甘くても甘く見ちゃいけない中毒するとヤバい奴。みんな飲んでるけど、中毒が行き過ぎると小人が見えたりする。異世界の酒はどんな味がするのだろうか。私、気になります。


「是非、頂きたいです」


 アリーを横目に見る。ボロを着てはいるが、座り姿も背筋が綺麗に伸びていて品が有る。アリーは酒を飲むのだろうか。


「私はお水かなにか頂ければ」


 俺は酒を所望したが、年齢的に問題ないのだろうか。心はアラサーだが、肉体は16歳だ。


 長老の奥さんが部屋を出ていく。長老が再び深々と頭を下げる。


「この度は、本当にありがとうございました。お陰様で、村の娘たちも皆帰ってくる事が出来て本当に安心致しました」


 しかし、なぜこんな平和そうな村で奴隷商が娘たちを攫って行ったのだろうか。それくらいこの世界の治安は乱れきっているということだろうか。思い切って長老に聞いてみることにした。


「長老、この村は平和そうなのに、娘たちはなぜ攫われたんですか?」


 長老はうつむいて髭を撫でる。アリーが不思議そうな表情を浮かべて俺の脇を軽く小突いて耳元でささやいた。


「こんなの、しょっちゅうでしょ?どこだって…」


 ああ、そういうことか。この世界の治安は俺が思っている数段上のレベルでヤバいらしい。 ブラジルのファベーラ以上、ヨハネスブルグ未満。


 数時間馬車を走らせるだけで三回も盗賊がヒャッハーして来るような世界だしな。


「残念ながらこんなご時世ですからな。やはりライナーク王国とオロース連邦国の戦争が落ち着くまではこの様な乱れた世も治まらないでしょうな。幸いこのアビラス王国は王の善政で戦禍に巻き込まれずに住んでおりますが、ライナークとオロースから多くのならず者が流れてきておりますしのう」


 どうも国同士が争っている為に治安が乱れているらしい。世知辛い前世日本よりもマシな世界を期待していたが、来る場所を間違えたかもしれない。


「ああ、そうですよね。ほんと嫌になっちゃいますよね、戦争」


 適当に話を合わせる。


「すいません、タバコを吸ってもよろしいですかな?」


 どうぞ、とうなずくと村長はポケットからタバコを取り出してマッチで火を付ける。


 青臭く甘い濃厚な匂いがふわっと鼻孔をくすぐる。これは…、マリファナだ!


 村長はゆっくりと煙を吸い込んでむせた。


「おっと失礼」


 ぼんやりとその様子を眺めていると、村長の目がどんどんと充血して赤くなってきた。


「村長…、そのタバコは?」


「ああ、木こりタバコですか。ウィリアムさんは都会のご出身で?これは我々の様な山ぐらしの田舎者が吸うタバコです」


 木こりタバコか。木こりと言えばマリファナに関して古い言葉が有る。


 木こりの麻酔い、というものだ。


 木こりが山に入ると、自生しているマリファナの成分を嫌でも吸い込んでしまい酔う事が有ったことから、木こりの麻酔いという言葉が生まれたそうだ。


 神社のしめ縄が麻で出来ていたり、北海道の先住民族であるアイヌも大麻を喫煙する文化が有ったと聞く。


 しかし、やはり日本における大麻のエピソードの中で最も印象的だったのがこの木こりの麻酔いの話だ。


「あの長老。すいませんがそれを一本頂けたりしますか?」


 長老は意外そうな表情を浮かべた後、ポケットからタバコを取り出してテーブルに置いた。


「こんなものに興味がお有りで?」


 もらったタバコにマッチで火を付けて深く吸い込む。タバコの何倍も重たい煙が肺になだれ込む。

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