屋上
とあるボカロの曲をオマージュに作成しました
屋上で靴を脱ぎかけたとき、ポニーテールの先客に声をかけてしまった。
「ねえ、やめなよ」
思わず声をかけただけ。彼女がどうなろうとどうでもよかった。ただ先を越されるのが、癪だった。それだけだ。ポニーテールの子は語った。聞き覚えのあることを。
「ずっとやってたスポーツ。怪我で二度とできなくなった」
あまえるな!それだけで!私の先を越そうだなんて。夢にやぶれても、他にやることがあるくせに!
「趣味の読書があるよ」と言ってポニーテールの子は消えてった。
今日こそはと靴を脱ぎかけたときに、赤い眼鏡の子にまた声をかけてしまった。
「ねえ、やめなよ」
赤い眼鏡の子は語った。切ない恋を。
「大切な人だった。どうしても愛して欲しかった。」
あまえるな!それだけで!私の先を越そうだなんて。愛されたいなんて、奪われたことすらないくせに!
「話しを聞いてくれてありがとう」と言って、赤い眼鏡の子は消えた。
今度こそはと、靴を脱ぎかけたとき、背の高い子にまた声をかけてしまった。
「ねえ、やめなよ」
背の高い子は語る。クラスでのいじめを。
「壊されて、無視されて、誰も頼れないと」
あまえるな!それだけで!私の先を越そうだなんて。それでも家では愛されて、あたたかいごはんがでるんでしょ?
「おなかがすいた」と泣いて背の高い子は、消えた。
今度こそは、今度こそはと屋上に行っては、何人も声をかけて、励まして家に返してきた。けれど、私自身の悩みは、誰にも言えなかった。
初めて見つけた。同じ悩みを持つ子。何人目になるのか、忘れてしまった。ベージュのコートの子。
「家に帰るたびに、増えていく痣を消すために、ここにきた」と言った。
思わず声をかけただけ。彼女がどうなろうとどうでもよかった。でも、声をかけずにいられなかった。
「ねぇ、やめてよ」
どうしよう、ダメだ。この子は助けられない。助ける資格が私にはない。でも、それでも今はやめて欲しい。同じ悩みを持つ君を見てると、胸が苦しくなるんだ。
「それなら今日はやめるね」といって、下を向いたままベージュのコートの子は消えてった。
今日こそは先客がいない。私ひとり。誰にも邪魔をされない。邪魔をしてくれる人はいない。
ベージュのコートは脱いで、ポニーテールをほどいて、赤い眼鏡のした背の高い私は、屋上から飛び降りた。