4 園森の話題?
学園生活、二日目!
朝、自然と体がPCを起動して、アプリを立ち上げていた。意外と習慣になるの早いかも。
昨日、初めて学園生活を送って、私にしては充実した一日だった。引きこもりながら学園生活を送るのも、悪くないかもね。
画面に教室が映った。まだ誰も来てない。あと数分もすれば麗子が来るかな。
時間を潰そうと思って、ベッドで寝転がっていると、だんだん瞼が重くなってきた。
いつの間にか意識が薄れて、ウトウトしていると。
「園森さん、聞こえていますか?」
PCから麗子の声が聞こえた。
眠い……。
もう二度寝体勢に入っちゃったから、起きるの面倒くさいよ……。このまま一限目サボって寝ちゃおうかな……。無理して授業受けなくてもいいって言われてるし……。
「今日は来てないのか?」
佐々木の声も聞こえた。ギャルなのに登校するの早いんだね。
「いえ、ここのランプがついているので、パソコンを起動していると思いますよ。席を外しているのかもしれませんね」
「おーい、園森ー! おーはーよー!」
「ですから、席を外しているのではないでしょうか」
「部屋にいるかもしんないだろ? 声かけてみようぜ」
「いえ、朝に大きな声を出すのは迷惑かと思いますよ」
佐々木と麗子が何か話してる。
佐々木がちょっとうるさいな……。
「大声出さなきゃ意味ねーじゃん。園森寝てるっぽいし」
「寝てるとは限りませんよ。席を外しているだけかもしれません」
寝てるよ……佐々木が正解だよ……。だけど、そっとしてくれる麗子の行動が正解だよ……。あー眠い……。
「そーのーもーりー! おーはーよー!」
「佐々木さん、私の話聞いていらっしゃいますか?」
「聞いてるよ。試してるだけだって」
「では、せめてもう少し控えめに言ってみてはいかがでしょう」
いいね麗子。佐々木を静かにさせて……。がんばって……。
「控えめってなんだよ?」
「園森さんの迷惑にならないように、少し押さえてくださいという意味です」
「それって麗子みたいなしゃべり方ってこと?」
「私をお手本にとは言いませんが、ええ、私は周りの迷惑にならないように心がけていますから、控えめと言えるかもしれませんね」
「ごーきーげーんーあーそーばーせーーーーーーーーーーーー!」
「違います! 全然違います! わたしは『ごきげんあそばせ』なんて言ったことはありません!」
「そーのーもーりーさーーーーん! いらっしゃるーーーーー!?」
「佐々木さんは大きな勘違いをしてらっしゃいます! それは控えめの対極です!」
「そーのーもーりー! おーはーよー! おーーーはーーーよーーー!」
「諦めないでください! 元に戻っています!」
うっるっさっ!
佐々木めっちゃうるさいし、麗子のツッコミもうるさいよ。この二人は一緒にいると、十倍うるさくなるね。目が覚めちゃったよ……。
PCの音量を下げてから、『聞こえてるから静かにして』と打った。
二人はまだディスプレイを見ずに、お互いの顔を見てる。
「園森、全然起きねー!」
「ですから、寝ていると決まったわけではないです。『席を外しているのでは?』と、わたし最初に言いましたよね」
「言ったっけ?」
「聞いていらっしゃらなかったのですか……?」
「あー、聞いてた聞いてた。回りくどい言い方だったからさー、こっちの耳からこっちの耳に、ひゅーって」
「聞き流さないでください。それに、回りくどい言い方はしてませんよ。普通の言い方だと思います」
「『席を外す』とか、普段使わねーよ。『外で遊んでる』とかでいいじゃん」
「『席を外す』は『外で遊んでいる』という意味ではありませんよ。一時的にその場を離れているという意味です。どのような要件でその場を離れているか、明確にしていないのですよ」
「うわぁ……国語きらい……」
「丁寧に説明してあげましたのに! その返答は失礼です!」
「休み時間に国語するとか、嫌がらせじゃん」
「国語するって何ですか……。国語を動詞にしないでください。『~する』という単語は動作性の名詞に付けるのですよ。『国語する』は間違っています。『国語の授業をする』と言うべきです」
「うわぁー麗子がいじめてくる!」
「どこがいじめてるのですか!? 佐々木さん、あなたは物事を整理して話すべきですよ!」
「麗子が正論でいじめてくるー!」
「正論なら正義ではありませんか?」
「正義だからタチ悪いんだよー」
「それは悪者の考え方では?」
「なんであたし怒られてんだっけ? もうムリ! 園森助けてー! って、園森いるじゃん!」
佐々木がディスプレイを見てハッとした。さっき私が打った『聞こえてるから静かにして』って文字が向こうには見えてるはず。
やっと気づいたね。
朝から私は何を聞かされてたんだろう。もっと早く気付いてよ。
「おはよー園森! 元気ー!?」
「おはようございます、園森さん。騒がしくしてすみません」
『おはよう、元気だよ。二人ともうるさいよ』
「ゴメンゴメン! 園森寝てたー?」
『うん、二度寝』
「やっぱり! ふふん」
佐々木が麗子に向かって『ほら、あたしの予想が当たった』みたいな顔をしてる。
「佐々木さんはなぜ得意げな顔をされているのでしょう……」
麗子は首をかしげた。
その後、何事もなく授業は進んでいったんだけど。
私の学園生活が激変する事件が、私の気づかないところで進行していた……。
最初に違和感があったのは、二時間目が終わったあとの休み時間。
「園森さんってどこの席?」
そんな何気ない一言がスピーカーの端から聞こえた。たぶん私の席の後ろの方だね。教室の少し離れたところで男子が会話してて、その声を拾ったみたい。私の席を知らないってことは、声の主はきっと他のクラスからうちの教室に遊びにきた男子なんだろう。私の席は目立つから、クラスメイトならみんな知ってるはず。
「まじでパソコン置いてあるだけじゃん。ホントに可愛いの?」
「うん、すげぇ美少女らしいよ」
は……?
私の話ししてたよね。なんで急に美少女とか言ってるの?
「ぜってーウソだろ。誰も顔見てないんだろ? なんで可愛いってわかるんだよ」
「細貝が上手く聞き出したんだってさ。ダークなんとかっていうアニメのヒロインに似てるとか……。ショートカットで目が大きくて、アイドルならセンター張れるくらい可愛いらしい」
私の話題はもう終わったのかな? どういう流れで切り替わったのかわからなかったけど、いつの間にか美少女の話になってる。アイドル並みの美少女なんて、私から一番遠い存在だね。アイドルのセンターどころか、引きこもりのセンターも無理。引きこもりのセンターって何?って感じだけど。
「バッカお前、普通の高校にそんな異次元に可愛い子がいるわけが……」
そう言いかけて、男子が二秒くらい沈黙した。
「……いるな」
「ああ、いるだろ。公立高校にも異次元に可愛い子はいる」
「つまりお前はこう言いたいのか……このクラスには華堂麗子レベルが二人いると……」
「ああ、スマンな。俺らだけいい思いして、申し分ないと思ってるよ。ウチのクラスは大当たりだったってわけだ。俺たちは勝ち組。お前らは負け組。俺らはこのクラスに振り分けられた時点で、お前らよりワンランク上の青春を送れることが保障されていたってわけだ」
「クッソ……羨ましすぎる。なんだその不平等は。ふざけやがって……」
ん……? このクラスに麗子と同じくらい可愛い子がいるって言ったよね? そんな子いたっけ……一度見たら覚えてると思うけど。
麗子はアイドルのセンターになれるくらいの美少女。奇跡みたいな顔。
唯一、同レベルのルックスがいるとしたら佐々木だと思うけど……佐々木はアイドルのイメージじゃないよね。どちらかというとモデルとか、ロック歌手みたいな感じ。
「なぁ、明日からオレとお前、クラス交換しようぜ」
「笑止。青春はプライスレスなんだ。お前はせいぜい中の上レベルの女子と青春を過ごしたまえ」
そんなノリで男子の会話が終わった。
男子ってバカだなー。
……と思いながら、聞き流してたけど、昼休みに私は知ることになる。
この男子たちの会話の意味。そして、私の学園生活がすでに私のものじゃなくなっていたことを……。