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2 甘いなお嬢様


「何それ」


「んとねー、家で授業受けられる機械らしいよ」


「え……そんなの持ってきたの?」


 そんな機械があるなんて知らなかった。授業って家で受けられるんだね……。私が引きこもってる間に学校がここまで進化してたなんて。


「あたしらが持ってきたのは説明書だけどね~。担任がうっかり付け忘れたんだって」


「機械はあらかじめ郵送で届いていたのですよ。せっかくですから、一緒にお渡ししようと思いまして、先ほど一階からお持ちしました」


 なるほど。家に届いてたけど、お母さん一人で三階まで持ってくるのは大変だし、平日はお父さん疲れてるから、放置してたんだね。それを二人で持ってきてくれるなんて優しい。


「ありがと」


「いえいえ、お気になさらず」


「そうそう気にすんなって! さっそく箱開けよーぜー! 園森、カッターあるー?」


 ギャルがキョロキョロ部屋の中を見回す。

 いや、ちょっと待って。勝手に話進めないで。それとこれとは話が別だから!


「開けなくていいよ」


「え? なんで?」


「授業受けないから」


「え……受けないの? せっかくこれ持ってきてあげたのに?」


 当たり前じゃん……。私、引きこもりだよ? 先生と会話するのも嫌だし、指さされて注目浴びるのも嫌。人と関わるのが嫌なんだよ。

 あらかじめ録画した授業を見るだけならいいけど、そういうことじゃないでしょ?


 ”授業を受けられる機械”っていうくらいだから、きっと他の生徒と同じように、私も一人の生徒として見られるようになるんでしょ。そしたら私のコミュニケーション能力の低さとかバレるじゃん。


「園森さんには何か事情がおありなのかもしれません。けれど、園森さんがご想像されているようなご負担はないかもしれませんよ」


 優等生、なんだか自信がありそうだね。


「まずはこちらの機械について説明させてください。こちらの機械でできることは三つです。教室の映像を見ること、教室の音声を聞くこと、そして、チャットで文字を伝えることです」


「伝えるだけ?」


 普通、チャットはパソコンやスマホを使って、互いにリアルタイムで文章を送り合うものだけど。

 優等生の説明は、一方的に私が文字を伝えるみたいに聞こえた。


「はい。実は、一年一組の園森さんの席には、すでにモニターが設置してあります。園森さんがこちらで文字を入力すると、学園のモニタに文字が表示されるという仕組みです。逆に、クラスメイトからチャットで文章が送られてくることはありません。わたしたちはパソコンを持っていませんので」


 なるほど。私が話すときはチャットで文字を入力して、教室のディスプレイに伝える。クラスメイトが話すときは声に出して、マイク経由で私に聞こえるってことね。

 

「こちらの仕組みは、生徒が大きな怪我やご家族の都合などで学園へ来れなくなってしまった際、継続して学園生活を送れるように考えられたのです。けれど、園森さんも学園へ通えない事情がおありのようですので、機械の貸し出しが許可されたのですよ」


 受験生の頃、お母さんに「この高校受けてみたら? 通わなくてもいいから」って言われたのを思い出した。

 ようやく意味が分かったよ。

『通わなくていい』って言われて安心してたけど、まさか『通わなくても学園生活を送れる』とは思わなかったよ。うちのお母さん、たまにこういうトリッキーなことしてくるんだよ……。


「プライバシーについてはご安心ください。園森さんのお部屋の映像は映りませんよ。万が一カメラをオフにし忘れて、お着換えなどが映ってしまったら大問題ですからね。この機械にはそもそもカメラがついていないのです」


 優等生の言う通り、思ったよりも私の負担は少ない。クラスメイトに私の姿は見えないし、声も聞こえない。

 何かを伝えたいときはチャットで入力するだけ。


「ということですので、こちらのシステムの準備をしましょう。園森さんも明日から、わたしたちと一緒に学園生活を送れますよ」


「ごめん無理」


「なぜでしょうか?」


 優等生は真っすぐ私の目を見てくる。私の気持ちが理解できなくて、私の目から読み取ろうとしてるみたいな、純粋な視線。

 麗子は悪い子じゃなさそうだけど、送ってきた人生が私と違いすぎるんだよ。


 私は子供のころから人見知りで、人を避けて生きてきた。友達と呼べるような子は幼稚園児の頃に一人だけ。小学生になってからは、周りの子たち同士が仲良くなって、初めて私は自分の欠点に気付いた。


 会話が下手で、容姿が悪くて、雰囲気が暗い。それがありのままの自分だとしても、周りからすれば”欠点”で、”悪いこと”で、”直すべきこと”なのだと知った。


 だから、私は学校の基準で、私を図られるのが嫌なんだよ。


「レイコ、説得ヘタすぎ! ないわー! 機械の説明されたって、学校行きたくなるわけねーじゃん」


 ギャルの佐々木が呆れた口調で言った。

 優等生の麗子よりは、ギャルの佐々木の方が、私に近い考え方を持ってるみたい。


「わたしの説明、下手でしたか……? よろしければ悪かったところを教えていただけないでしょうか」


「えームリ! あたし説明すんのヘタだし」


「むっ」


 麗子が怒った顔になる。


「では、佐々木さんも園森さんを説得できないのですね? わたしの説明をダメだと言っておきながら」


「フフッ、甘いなお嬢様」


「ですから、お嬢様ではありませんっ! なんなのですかその態度は! 園森さんの学園生活がかかっているのですよ! 佐々木さんももっと真剣になるべきです」


「あたしはいつだって真剣だぜ! こんなことになると思って、秘策を用意してきたからなー!」


「秘策……?」


「フフッ」


 佐々木が鼻で笑って、ポケットからスマホを取り出した。

 秘策って何……? 私が学校に行きたくなるような”何か”が、スマホにあるの……?


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