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2 はじめまぁー


「おっすー園森! あたし同じクラスの佐々木沙耶花ささきさやかだよー。はじめまぁー」


「園森さん、勝手に入ってしまってすみません。わたしは一年一組の学級委員長をしています、華堂麗子です。先生から預かり物があってお伺いしました」


 リア充が私の部屋に入ってきちゃった……。どうしよう……。

 二人とも明るいオーラに包まれてる。

 優等生は睫毛長くて、小柄で、清楚な美少女って感じ。長い黒髪もサラッサラで、シャンプーのCMに出てくる合成映像みたい。


 ギャルは超美人。足長! 顔小さっ! 

 ピアスも似合ってるね。イカついけどオシャレ。金髪にチョコンとちっちゃいシルバーがアクセントになってるの、カッコ可愛くて憧れる。私の理想の女子に近いわ。私もピアスして尖った美人になりたい。

 でも、私が真似してもそんなモデルみたいにならないからね。正解出された後に不正解の札上げる勇気ないわ。


 とか考えてたら、ギャルの顔が引きつってることに気付いた。


「ねぇ……園森、なんで暗い部屋でゾンビ映画観てんの?」


 え、ゾンビ映画って暗い部屋で観るものでしょ? 暗いシーンが多いから、明るいと見づらいじゃん。


「あたしそうゆーのまじでムリなんだけど! 怖っ! うわぁ……!」


 ゾンビが別のゾンビの腕に噛みついてるシーンだね。

 普通ゾンビはゾンビを襲わないけど、さっき主人公がゾンビ同士で争うように仕向けたんだよね。ちょうど面白いところ。


 ゾンビが首を振りながら、灰色の肌に歯を喰い込ませていく。もう一人のゾンビが奇声をあげる。


「うわぁ、ムリムリムリ! グロッ……!」


 主人公の青年が床を見ながら一歩、二歩後ずさり…………。

 床に落ちたゾンビの腕が、トカゲのしっぽみたいにビクビク動いてる。


「きゃぁあああああああああああああああああああああああああ!」


 ヒロインの悲鳴とギャルの悲鳴が重なった。

 めっちゃうるさい……。


「あーあーあー! あたしは何も見てない―! 何も聞こえないー! かーえーるーのーうーたーがー! きーこーえーてーくーるーよー!」


 なんでカエルの歌!? わかったよ。消すよ。消すから静かにしてよもう。


 プツン……。


 ギャルはチラっとテレビを見て、歌うのをやめた。


「ふぅ……悪いな園森。あたし、実はああいうのちょっと苦手なんだ」


 ちょっとじゃないでしょ。めっちゃうるさかったよ。


「園森さん、お騒がせしてすみません。ご家族の方にもご迷惑かけてしまいましたね」


「別にいいよ」


 ここ三階だから、一階には聞こえてないと思う。


「園森さんはあのようなテレビがお好きなのですか? とても恐ろしい人が映っていましたけど」


 優等生、ゾンビ知らないのかな?

 私は週に二本以上ゾンビ映画観るくらいのゾンビ好きだよ。海外ドラマとか漫画とかも好き。


 って言いたいけど、人と話すの久しぶりで、声が出ない。十文字以上しゃべるの無理だわ。曖昧にうなずいておこう。うんうん。


「人じゃなくてゾンビだろー。お化け屋敷とかにもいるじゃん」


 ギャルがかわりに答えてくれた。


「ゾンビとは何でしょう? わたしはお化け屋敷に入ったことがないのです」


「死なない怪物みたいなヤツ。力強くて、攻撃が効かないんだよ。人に噛みついてそいつもゾンビにしちゃう」


「あぁ、吸血鬼のことですね」


 違うよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 そんなスマートな怪物と一緒にしないでよ! 私は腐ったゾンビが大好きなの! あのグロい奴がどんどん街中に増えていくのがエモいの! 吸血鬼なんて見た目ほとんど普通の人間じゃん! 十字架とニンニクと太陽が弱点とか、弱点多すぎだし。ゾンビは頭撃たれたら死ぬ、シンプルでしょ!? 時代が進むに連れてイケメンになっていく吸血鬼とは違うんだよ! ゾンビは原始的な怖い存在なの! 数の暴力! 言葉が通じない恐怖! そういう心の底からゾクゾクする存在なの!


 私はゾンビ映画のBDケースを持って、優等生に押し付けた。


「吸血鬼じゃない。観て」


「ひょっとして、貸して下さるのですか?」


「うん」


 優等生に渡したのは、最近のゾンビ映画だけど、基本に忠実な良作。墓場から蘇ったゾンビが少しずつ増えていって、人間がどんどん狭い地域に追い詰められていくシンプルな話。アメリカでも地味にヒットしてた。私の最近のお気に入り。


「ありがとうございます。怖そうな映画ですね。でも、自分の知らない世界を知ることで人生は豊かになりますからね。ありがたくお借りいたします。ふふっ」


 優等生とゾンビ映画、似合わないなぁ。

 本当に観るつもりなのかな。この子の両親はどんな反応するんだろう。娘がヤバい趣味にハマったって心配しないかな……。


「うわぁ……レイコ、そういうの平気なんだ。あたしムリ……」


 ギャルがドン引きしてるね。

 そういう反応好きだよ。最近はゾンビ映画をワンパターンとか言って馬鹿にする人も増えてきたからね。素直に怖がってくれる人は好き。普段恋愛映画しか観てなさそうなギャルの反応は初々しくていいね。


「何事も経験が大切ですからね。園森さんがこの映画が好きなことには、きっと理由があるのですよ。ひょっとしたら感動できるお話かもしれません」


「そんなわけないだろ。めっちゃ怖いやつだよそれ」


 感動要素は一ミリもないよ。


「そうなのですか? ですが、世の中には”怖いもの見たさ”という言葉がありますからね。人は本能的に、苦難を乗り越える方法を知りたいという欲求を持っています。物語の中で危険を疑似体験し、登場人物たちの解決方法を知ることを、楽しいと感じるのですよ」


「人間はみんなドMってコト?」


「違います……」


 優等生はギャルをジト目で見た。喜んでない辺り、ギャルはMじゃなさそう。

 ふと優等生がパチンと手を打った。


「そうでした、わたしたちから園森さんにお渡しするものがあるのです」


 部屋の前でそんな話してたね。プリントかな?

 二人は廊下に出ると、でっかい段ボールを持って戻ってきた。

 思ったより大きいね……。1年分の宿題でも詰まってるのかな……。


「せーの……あっ!」


 ゴンッ!

 二人のタイミングがズレて、ちょっと鈍い音がした。鉄でも入ってるのかな……。


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