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1 ギャルとお嬢様が部屋に来た


「うっひひ……やっぱりゾンビ映画は最高だぜ……」


 薄暗い部屋の中で、テレビ画面に映るゾンビを観察してる私。

 ただエンジョイしてるというより、まじで観察してるんだよね。

『趣味は人間観察です!』みたいな感じで、私の趣味はゾンビ観察なの。


 だって、本当は俳優たちもゾンビ役なんてやりたくないんだよ?

 ヒーローとかヒロインを目指して役者になったの。

 それなのに血みどろのメイクして、ウロウロ動き回りながら奇声を発してるだけって、面白くない?


 それぞれの人生があって、個性があって、培ってきた演技力があるのに、ゾンビ映画の中ではみんなゾンビになっちゃう。


「くひ……くひひひひ…………」


 いや、わかってるよ。

 ゾンビみたいな子は私だっていうね。アレね。はいはい知ってますよ。

 女子高生なのに五年くらい部屋に引きこもって、誰とも話さずにゾンビ映画観ながら笑ってる。これはもうゾンビだよね。


 ゾンビは頭を撃たれない限り死なないけど、生きてるわけでもない。

 私は死なないように生活してるだけのゾンビ系女子。部屋の中に引きこもって、寝て食べてお風呂入って、無敵のフリをしてるだけ。


 だからこそ、普通の人達がゾンビになって、どんどん増えていくエモい世界が好きなんだよね。


 こんなゾンビ系女子でも、いつか普通の女子みたいになれるのかなぁ。

 それとも、ゾンビを通り越してミイラになるまで、ずっと部屋の中にいるのかなぁ。

 なんて考えていると。


 ーードンドンドンッ! 


「……ヒッ!?」


 ドア叩かれた。

 心臓バックバク。

 こんな叩き方するの、お母さんでもお父さんでもない。

 ……ってことは、不審者?

 心臓止まりそう。私グロ映像には耐性あるけど、リアルの恐怖には弱いんだよね。


園森そのもりー。あたしクラスの佐々木だけどー。中にいるんでしょー? 開けてー」


 うわっ……ギャルだ。しゃべり方がギャルっぽい。部屋の外にギャルがいるよ。

 お母さん、どういうこと? 玄関で検問にかけて、リア充を生活区域に入れないのがお母さんの役目でしょ?


「園森ー? 部屋にいるんだろー? 無視すんなよー。あーけーてー」


 ーードンドンドンッ! 


 このギャル……引きこもりとの接し方わかってないじゃん。

 事前に誰か引きこもりの説明書渡しといてよ。引きこもりは水族館のグッピーみたいに扱ってくださいって。


「つーかさ、ここじめじめしてんだけど。部屋の中どーなってんの? なんかカビ臭いし」


 乙女心えぐってくるね……。

 思ったことをそのまま言っちゃうタイプのギャルじゃん。なんでこの子、私の家に来たんだろう。

 子供の頃からクラスメイトが学校のプリント渡しに来ることはあったけど、ギャルが来たのは初めてだよ。


「園森ー、開けないなら蹴破るよー? いいのー?」


 大型巨人なの? いいわけないでしょ。

 っていうか、女子高生の力でドア蹴破るのはムリだからね。そんなハッタリで私はドア開けないよ。


「おーい、いつまで無視しんてんだよー! 開けてくれないと、あたし帰れないんだよー! 先生と約束してんのー!」


 知らないよ。約束って何?

 本人無視して勝手なことしないでよ。そういうのは私の意思を聞くものでしょ。

 どうしても部屋のドアを開けたいなら、その前に内側にもう一つドア作るのが条件だよ。


「……あの、佐々木さん。任せて欲しいと言われましたので黙っていましたけど、少々乱暴すぎますよ。ひょっとしたら園森さんは怯えてしまったかもしれません。部屋の前で騒いだり、ドアを叩いたりするのはご家族の方にもご迷惑だと思います。もっと優しく声をかけてみましょう」


 礼儀正しい子もいるじゃん!


 しゃべり方優しいし、声も綺麗だし、品がある。こういう子なら私も安心してドアの下の隙間からプリント受け取ったりできるよ。


「ああ……ゴメン。あたしの家で弟呼ぶときみたいにやっちまった。次はもうちょっと優しく声かけてみる」


「ええ、頑張ってください」


 すーっと息を吸い込む音が聞こえた。


「園森ー! あたしは怖くないぞー! ドア開けてー! お願いー!」


 やってること同じ!

 優等生のアドバイス活かしてないじゃん。

 

「で、ですからっ! そうやって大きな声を出したら迷惑でしょうと言っているのですっ!」


「小さい声だと聞こえないかもしれないだろ? さっきよりは小さい声にしたぜ」


「それでも大きすぎますよ。ご近所にも迷惑です。もっとお淑やかにしてください」


「何だよお淑やかって。あたしにそんなの求めるなよ。文句があるならお嬢様がやればいいだろ?」


「誰がお嬢様ですか!? わたしは一般的な生徒です」


「えー、お嬢様じゃん。普通の生徒は『お淑やか』なんて言葉使わねーよ」


「では言い直します。『礼儀正しくする』ということです。それに、そんな呼び方は失礼ですよ。わたしには華堂麗子かどうれいこという名前があるのですから。きちんと名前で呼んでください」


「華堂麗子さーん。早くしてくださーい」


「なんですかその言い方! 失礼ですね!」


 この二人、相性悪いね。性格が正反対じゃん。

 そんなことを考えていると。


 コンコン……。


 静かなノックが聞こえた。


「あの、園森そのもりさん。お部屋のドアを開けてくださらないかしら? 渡したいものがあります。とても大切なものなのです」


 わぁ……声が綺麗。礼儀正しくて、話し方がお嬢様っぽい。

『とても大切なものです』とか言ってるけど、どうせ学校のプリントでしょ? 一瞬ドキっとしちゃったよ! たぶん、無意識に男の心を鷲掴みにするタイプだね。


「お返事がありませんね」


「ぷっ、偉そうなこと言ってたのにレイコも無視されてんじゃん」


「えっ、無視ですか!? わたしは丁寧に話しかけましたよ! 佐々木さんと違って、無視されるようなことはしていません」


「話し方が学校の先生みたいだからじゃねーの?」


「どういうことですか……」


 どういうことだってばよ。


「だって、園森は引きこもりだろ? だったら『学校の先生ウゼー』と思ってるかもしれねーじゃん」


 それヤンキーの考え方だよ……。私は学校の先生を何とも思ってないよ。


「学校の先生が嫌いということですか?」


「そうそう。真面目っぽいのがイヤなのかもしれねーぜ?」


「そうでしょうか。わたしは学校の先生を嫌う気持ちがわかりません。それに、丁寧な話し方の何がいけないのでしょうか? 乱暴な話し方より丁寧な話し方の方が」


「だーかーら! そういうのがダメなんだって! もっと軽い感じでいーじゃん!」


「軽い……感じ?」


「そうそう。『オッスー!』みたいな感じで、軽く声かけてみればいーじゃん。あたしはつい男言葉っぽくなっちまうけど、レイコならいい感じにできると思うぜ」


「確かに一理あるかもしれませんね。アドバイスありがとうございます。軽く、やってみますね」


 二人の作戦、丸聞こえだよ。

 ちなみに、小三の頃から何人もの教師やクラスメイトたちが部屋を訪ねてきたけど、私は一度もドアを開けたことはないよ。それどころか、ドア越しに会話したこともない。

 ときどき優しい先生とかクラスメイトに説得されて、うるっときちゃうときもあるけど、そういうときは『いい人だなぁ』って静かに感動してる。

 私がドアを開けるのはお風呂とトイレに行くときだけ。優等生に説得されても開けないよ。


「あの、園森さん。先ほどから大きな音を立ててしまってごめんなさい。ドアを開けて、お顔を見せてくれませんか? とても大事なものを預かっていますので、ちゃんと手渡ししなくてはならないと思うのです」


 手渡ししたいものね。その言い方からすると、たぶんクラスメイトからの手紙とか寄せ書きとかでしょ?

 そんなもの貰って外に出られるなら、私はとっくに校庭の真ん中でブレイクダンスしてるよ。


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