降霊術
雲ひとつない空の下セミの声はうるさいほど鳴り響き僕の鼓膜を震わせてる。
外気温は30℃を越えまさに真夏である。
そんな日に僕はじっとり汗をTシャツに染み込ませながら暗く狭い押し入れの中にいた。
外では部屋の畳をミシミシと音をたてながら何者かが歩いているような音がする。
さて、なぜ僕がこのような状態になったのか説明しよう。
時は二時間前に遡る。
暑くて暑くて死にそうだった僕はその煮えきった脳みそで何か涼しくなれることはないかと考えていた。
そしてその発想はいつの間にか物理的な冷気からオカルト的な霊気へと変化した、肝を冷やそうと考えたわけだ。
そして僕は「ひとりかくれんぼ」と言うものを見つけたのだ。
方法はぬいぐるみに爪やら米やらを入れて風呂桶に沈めればいいらしい。
元カノが置いてったぬいぐるみの処理にちょうど困っていたところだ。
早速やってみようと考えた。
準備を終え風呂にぬいぐるみを沈めた。
「最初は僕が鬼だから」
部屋をぐるぐる回る。
そして風呂に戻る。
「見つけた」
ナイフでぬいぐるみを刺す。
「次はお前が鬼だから」
そして塩水を持って押し入れに入る。
「押し入れの中は少しカビ臭いなぁ」
まぁ適当に30分くらいここにいて終わりにしよう。
そんな事を考えながらスマホを弄る。
「暑い…。」
やっぱり煮えきった脳みそで考えた事はろくなものでは無い。
冷静に考えれば真夏に押し入れに籠もってもただ暑いだけである。
もしかして塩水は熱中症対策か?
「終わりにしよう…。」
そう呟いて押し入れに手をかけた瞬間、遠くでなにか音が鳴った。
「パキャッ」
パッキンで密閉された扉が開く音。
浴室の扉が開いた音だ。
ブワーッと今までと違うタイプの汗が全身の毛穴から吹き出す。
やばいやばいやばいやばい。
耳に精神を全集中する。
「ペタッペタッ。」
とフローリングを濡れた足で歩く音がする。
その歩幅は明らかにぬいぐるみではない。
頭が段々理解に追いつく、
「あ~、はいはい。ぬいぐるみは媒体で降りてくるのは人間なのね。」
脳内の冷静な自分が人差し指を立てながら笑顔でそう言った。
現実の僕は冷汗ダラダラで固まっているというのに。
段々頭が冷静になっていくのを感じた。
そう僕は冷静な男なのだ。
とりあえず塩水を口に含もう。
なんか説明文的に無敵感あったし。
塩水を口に含む。
結構しょっぱい。
っていうかこれ塩分濃度足りてんのか?
100mlに対して小さじ1とかちゃんと明記しろ。
こちとら命かかってんねんぞ!
「ミシッ」
畳を踏む音だ。
そして時は現実へ追いつく。
「ミシッ」
ゆっくりと近づいてくる。
僕もゆっくりと押入れの扉を押さえる。
頼むからこちらに来ないでくれ。
「ミシッ」
足音だけで何故か探して居るのがわかる。
「ミシッ」
「ミシッ」
「ミシッ…」
少し離れたか…。
それからずいぶん時が経つ。
足音が聴こえなくなった。
ゆっくりと押入れの扉を開ける。
シャワシャワと蝉の声が聞こえる。
日も落ち始め、部屋が赤く染められていた。
人形を探そう。
生きてきてしたこともないゆっくりとした動きで物音一つ立てずに浴室に向かう。
やはり扉が開いて居る。
そぉ〜っと中を覗く。
人形が無くなっている。
またブワーッと全身の毛穴から冷汗が吹きでる。
ここに人形があればまだ自分の幻聴妄想ですんだのに…。
浴室に人形に刺したはずのナイフだけが転がっていた。
ナイフを拾う、
片手にコップ片手にナイフの万全の体制だ。
人形を探そう。
ふと床を見ると水が垂れた跡がある。
そしてそれは和室を経由して玄関へと向かっていた。
ゆっくりと玄関に向かう。
見つけた。
玄関にビショビショのぬいぐるみを発見。
「ふ〜」
終わりが見えて安堵した僕は鼻から息を吐き
そのままの流れでゴクっと塩水を飲み込んでしまった。
「見つけた。」
これは僕の声ではなかった。
後ろから少しこもった男とも女とも取れる声でそう聞こえた。
反射的に玄関の鏡を見ると
後ろの何かと目が合いそうになった。
「わああああああああああああああああ!!」
僕は全力疾走で裸足のまま家を飛び出し、近くの神社に駆け込んだ。
「助けてください!!!!」
力の限り大きな声で叫んだ。
そして警察を呼ばれた。
汗だくの白Tシャツにトランクスの男がナイフを持って走って来たのだから当然である。
警察と神主さんに事情説明すると両方からめちゃめちゃに怒られた。
そして警察と神主さん同行の元、家に帰ってお祓いやらなんやらして頂いた。
ぬいぐるみは神主さんにお焚き上げして貰うことになり、警察からも厳重注意という事で落ち着いた。
もうこんな事は二度としない。
今では飲みの席での定番ネタになった。
でも不思議な事が一つあるんだ。
この事を話したら「おたふくのお面がトラウマになっちゃうね」って言われたんだ。
お面つけてたなんて一言も言ってないのに。