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最果てジンセイの殺め方  作者: 澪華 零
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キオク2 開演

「きりーつ。礼ー。お願いしまーす」


 無気力な男子のホームルーム委員が4時間目のはじめの挨拶をする。皆バラバラに挨拶を済ませた後、先生は授業を開始した。この授業は「小論文」の授業で、高三になる前に基礎を着けておこうという目的で今年から導入されたものだとか。


「ねぇねぇ、宿題やった??」

「やったよ!ちょっと待っててね」 


 申し訳なそうな声で私に話してきたのは、クラスでも地位の高い女子_____「林道 心咲」《りんどう みさき》だ。この子とは中学校からの付き合いで、唯一の「親友」と呼べる大切な人だ。趣味で「あれ」…そう。小説を書いていることも彼女にだけはこっそりと公表した。


「心咲が忘れるなんて、珍しいね?」

「今日はバタバタしてたから…本当にごめんね?」 

「大丈夫だよっ」


 グットマークを小さく心咲に見せて、小論文の宿題を授業をしている先生にバレないように鞄から取り出した。

 昨日無意識な涙を見せた私は気づけば寝落ちしていて、起きたときには夜になっていた。小論文があり課題に手を着けてなかった私に、弟はアドバイスをしつつ夜遅くまでお手伝いしてくれた。あれは本当に助かった……


「……あれ?」

「どうしたの?」

「…ない。昨日書いたのが…それに「あれ」も」

「えっ……「あれ」も?」

「う、うん」


 原稿用紙と授業用のノートはあるものの、心咲に見せようとした小説ノートも宿題の小論文もすっぽりなくなっていた。どうしようと二人で焦っていると、先生に気づかれて注意を受けてしまった。経緯を話した私と心咲は幸い宿題忘れにはならなかったものの、クラス全員の目線が私たちに向けられた。


「心咲!?珍しいね!」

「最近部活とか勉強とか忙しかったもんね~」

「心咲『は』しょうがないよ!ねぇ??」


 クラスメイトが次々に寄せられるのは心咲だけの慰めの内容。最後に言った子の『は』が強調されているのも私には何も無い事にも。小学校の頃から変わらないこの場面。私も人間だから初めは悲しかったけど、今はもう慣れてしまった。この後、席に着いて申し訳なさそうな心咲に大丈夫だよと笑顔を向ける事も。


◇◇◇


「凄い混んでるね〜」

「これじゃあ買うの時間掛かるよ〜!」


 暫くして授業が終わり、お昼を買いに心咲と購買前に来ていた。色んな種類のお惣菜やお菓子が並んでいるためいつも大盛況だ。ようやく着きどれを買うか迷っていると、心咲がとんとんと軽く私の肩を叩いた。


「どしたの?」

「あれ……イケメンじゃない??」


 なんだと思ったらそんなことかと思って思わず笑ってしまう。それを見た心咲は本気らしく、顔が赤くなってむすっとしている。それが可愛らしくよしよしと頭を撫でた。……心咲がイケメンだと言っているのは私の弟だけど、言わないようにした。


「あ、姉さん」

「やほ。どうした弟よ?」


私に気づいた弟はメロンパンを買ったのか、それを手に持ちこちらに来た。心咲は思考停止しているのか固まってしまった。一方弟は涼しい顔をしてさらっと言った。


「初めまして、姉貴の弟です。いつも姉貴と仲良くしてくれてありがとうございます」

「あ〜!紹介のやつやりたかったのに!!さらっと言わないでよ!」

「うるっさい。人沢山居るの。周り考えて?」

「すみません」


 的確な事を言われだんまりしていると、数秒遅れで心咲が驚愕の叫びを上げたがすぐに口を押さえてだんまりした。その様子がおかしかったのか、ふふっとはにかみ笑顔を浮かべる弟。あまりにもカッコいいので、弟よ。お姉ちゃんをを萌え殺しさせる気?と心の中でツッコミを入れた。それは心咲も同じだったらしく、弟を拝んでいた。


「あ、姉さん借りますね。それじゃあまた」

「またね〜」


語尾にハートマークがつきそうな勢いで返した返事にまだ涼しい顔をして私の手を引き、購買を後にした。


◇◇◇


「ごめんねぇ…冷たかったよねぇ」

「ううん、大丈夫。君の方が冷たいから」

「もう少し擁護できないのか…心咲よ」


 辛辣な言葉に頭を抱える私。屋上に行った私達はたわいもない会話をしながらお昼休みを過ごしている。ここはあまり人が来ない上、ゆっくりと過ごせる場所だ。空は真っ青で心地よい風が私達を包み込む。


「そういえばさ、弟さん何だったの?」

「あぁ、今日お母さんたちが帰ってくるのよ。掃除あるけど待っとく?って言われた」

「なんなんだその紳士的な対応。…羨ましい!!」


 今度は向こうが頭を抱えていた。両親は海外出張が多く帰ってくるのも日に日に少なくなった。会えないのは寂しかったけど、帰ってくるときは沢山のお土産と話をしてくれるからそれを楽しみにしていた。


「これが、姉という特権なのだよ心咲く」

「ちょっと黙れ?」

「すんません。調子乗った」

「分かればよろし」


 もっと話したかったが,チャイムがなり屋上を後にした。笑いながら教室に向かう。当たり前だけど当たり前ではなくなる時が来るはず。幸せな日々がずっと続けば良いと願った。


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