4. 目覚め
「これ、渡しとくから、次会う時までに全ルートやっといて。攻略本も貸す」
そう言って友人が渡してきたのはゲームのカセットと攻略本だった。
「乙女ゲーム?」
パッケージのイケメンを見て問うと、友人はニヤリと笑った。
「BLゲー。あなたの推しが声を当ててるキャラもいるよ」
友人はなぜか自慢げで、君が作ったわけでもないのになぜそんなにドヤ顔をしているのだろうと思ったけれど、その笑顔を見ていると、自分の心が満たされていくのをたしかに感じた。
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遠くに光を感じて目を覚ますと、そこはいつもの部屋だった。窓から差し込む光が目元に当たって目覚めたらしい。
「ミヒャエル」
ようやく耳慣れ始めた名前に声がした方を仰ぎみると、そちらにはようやく見慣れ始めた母親の姿があった。続く言葉はミヒャエルにはさっぱり理解できなかったが、今世の母親がひどく安心した表情をしていることはわかった。
何か、それほど安心をされるようなことがあっただろうかと考える。しばらくして、自分が眠りに落ちる前に何とも言えない不快感に大泣きしていたことを思い出した。
母が天井から垂れる呼び紐を引くと、すぐに部屋に人がきた。母から何事か言付けられて、さっさと退出する。
その様子を、ミヒャエルは目覚める前よりもかなりはっきりとした頭で眺めていた。頭だけではなく視界も鮮明になっている。
「カレン!ミヒャエル! 」
声と共に扉を大きく開けて入ってきたのは、夜空を切り取ったような深い紺の髪を持つ男だった。どこかで見たような顔だと思ったが、ミヒャエルに今世になってから自分以外の男性にあった覚えはない。
突如として部屋に入ってきた男は、母と二言三言話すとミヒャエルをじっと見た。
何事か、ミヒャエルには聞き取れない言葉を発してそっと頭を撫でる。その手つきに、ミヒャエルは、自分が眠る前に額に触れた人物を思い出した。あれも、今と同じような、温かくて思いやりを感じる手つきだった。
この人物に見覚えがあったのは、あの時自分の不快感を取り除いてくれた人物だったからなのかと、一人で納得した。
「ミヒャエル……ファーティ………」
男はミヒャエルを抱き上げて何事か囁く。内緒話をするようなささやきに、ミヒャエルはくすぐったくなった。
母と親しげに話す様子、自分に対しての態度から、これが今世の自分の父親だろうと推測した。自分を見つめる秋の空のように澄んだ瞳には、深い愛情が透けて見えた。
父と母、前世の二人には会えないけれど、今世自分を大切にしてくれるらしいこの二人を、自分も出来る限り大切にしようと、彼にしては珍しく、何の打算もなく素直にそう思えた。
前回、そろそろ物語が動き始めるとか書きましたね?
あれは寝言です。
次回ぐらいから一話あたりの文字数が少し増え始めるかと思います。