17. 深窓の君と馬場
一角馬を連れ帰るという目的は果たしたが、案の定、ミヒャエルはカレンとマルガレーテの両名に怒られた。それはもう、すごく怒られた。
苦労して手に入れた一角馬は、他の馬達と共に飼育されている。
最初は世話をする馬丁たちも動揺していたが、首輪が付いていれば普通の馬とそれほど変わらないと気がついたらしい。今ではよく手入れがされて、すっかり毛並みが良くなっている。
連れてきた一角馬は偶然にも雄と雌だった。
ミヒャエルの目論見に向けて1歩前進である。
とはいってもどちらもまだ幼いし、相性の問題もあるので、最終目標である繁殖させて数を揃えて移動に使うという目標には、あと数年かかりそうだ。
「またそんなに満足そうな顔をなさって」
天気がいいからと庭へ散歩に行きたがるミヒャエルを見て、マルガレーテはすぐさま「いつものアレ」だと気がついたようだが、仕方がないという顔をしてライナーと共に着いてきた。
一角馬を連れて帰ってからというもの、3日に1回はこうして一角馬を見に来ている。危険だからと近づくことはできないが、自分の連れてきた生き物が健やかに育っているのを見るのは、気分が良かった。
時折、その白い腹を見ていると、赤黒い何かが頭の奥から染み出してくるけれど。
「のんの!」
「乗馬はまだ少し早いですわ」
正確にはまだかなり早いのだが、それを正直に伝えるとミヒャエルが大変に不貞腐れる未来が見えるので、マルガレーテは素知らぬ顔をして「少し」と伝えている。
一方のミヒャエルも、前世の記憶があるとはいえ、子どもが何歳から乗馬を始められるかなんてことは知らないので、マルガレーテの言葉に大人しく黙り込むしかない。
「のんの」
「乗馬はまだ先よ」
ミヒャエルの真似をしたライナーは、母の言葉を分かっているのかいないのか、手を叩いてキャッキャッと笑う。
そんなライナーを眺めながら、ミヒャエルは思考を巡らせる。
そもそも、ミヒャエルが一角馬を捕まえてきたのは、領地から王都までの道のりを少しでも快適にするためである。
父が、馬での移動は馬車と比べて襲撃などの危険に対応が難しいというので、馬よりも足が早く、人間からも魔獣からも逃げやすい一角馬を捕まえてきたに過ぎない。
馬車という手段を回避することによって、王都までの移動を楽にしようとしたのである。ところが乗馬を教わってない以上、馬車という手段は回避出来そうにない。
ここは馬車を使って移動することを前提として、馬車酔いを減らす手段を考えた方がいいだろう。
酔いを減らす手段として手軽なのは酔い止めの薬だ。しかしこの手軽さはそこかしこに薬局やスーパー、コンビニがあった前世の感覚を基準にしたものである。
今世においては効果の怪しい、何が入っているかよく分からない薬を扱っている薬師はいるが、薬剤師はいない。
よって薬局もない。
医者というものも存在しない。
神殿に治癒士はいるが、馬車酔い解消のために手軽に呼び出せるような立場の人間ではない。
さて、どうしたものかと頭の