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基本魔術の練習をする(前)

 良い練習場所があるとアイに連れてこられたのはブラックルームと呼ばれている施設だった。俺は世間に疎いため知らなかったが、若者に人気の施設らしい。お金を払って部屋を借りて、時間いっぱい魔術を撃っていいという部屋なんだそうだ。


 その部屋はまず常人には破れない結界が張られていて、情報秘匿の為に周りからは黒い箱のように見えている。ブラックルームの中ではどこまでも広がる平原のような場所や家々が立ち並ぶ市街地を再現できるらしい。何とも環境に優しい便利な練習場だ。


 ちなみに俺たちが借りた場所の設定は平原にした、後からいくらでも変えられるらしい。本当に便利だなこの場所……。


「やっぱりブラックルームのこと知らなかったのね。取り敢えず五時間くらい借りたけど、いくらでも延長できるから時間の心配はしないで大丈夫」


 支払いは二等分でいいから。とアイは付け加える。


「俺が教えてもらう立場なのに、俺が支払わなくてもいいのか?」

「いいよ、私も教えることで勉強になると思うしね」


 実技試験満点のアイに俺が教えられることなんてないはずなんだが……。気配りの鬼か何かかアイは……。だがまあありがたい、仕事で稼いだ金はあるが無駄使いして師匠にとやかく言われるのも嫌だしな。


「本当に助かる。それじゃあ早速なんだがまずは火、水、土、風、雷系統の魔術から教わりたいんだ」

「あ、ちゃんと勉強してるんだ。端から端まで教えてくださいみたいになるかと思ってたのに。しっかり基本の五つからなんだね」

「そりゃ常識勉強したからな。重力とか光とか魔術で弄れるのは知ってるけどそんなのは今はいいよ」

「そこまで知ってるならいきなり実践でいいよね?」


 そう言うとアイは右手からは紅く輝く火を、左手からは零れ落ちることなく水の球を同時に出した。


「はい、やってみて?」


 俺は意味がわからなかった。今アイが使った火と水の魔術は無詠唱なのだ。俺の記憶ではかなり短くとも「火よ」や「水よ」といった詠唱くらいは皆していたような気がするのだが。しかも両手同時に違う魔術を展開している。やはりというか、流石に入試一位は伊達ではないようだ……。


「ユウなら知ってると思うけど魔術はイメージが大事なの。完全にイメージ出来ていれば言葉で補強する必要はない」


 なんなら経験あるか知らないけど燃え盛る屋敷とそれを打ち消す豪雨でも考えてみたら?とアイは付け加えた。


 確かに敵グループの屋敷を燃やしたことはあるが……。それに師匠もそんな状況で人助けをしたことがあるとも言っていたかな。まあそれはいい、アイの千里眼でも持ってるんじゃないかというようなコメントは慣れた。


「なるほどな……。イメージ、イメージ……」


 俺はアイの真似をして両手を軽く前に出し、手のひらを上に向ける。イメージは先ほど言ってもらった通り燃え盛る屋敷とそれを冷たく洗い流す夜の豪雨だ。


「お、一発で出たな。流石教え方がうまいとすぐできるようになるな」


 俺の右手からは黒い火が、左手からは黒く濁った水の球が出来ていた。


「なんか凄い黒いんだけど、火も水も……。ユウは一体何をイメージしたんだか……。考えの黒さが魔力にまで漏れ出てるんじゃない……?」


 冗談のつもりで過激なイメージで伝えたけど、普通にご飯作る時の暖かい火とか、畑を育てる恵みの雨とかを想像すれば良かったのに……。とアイはため息をついた。


 確かになと俺は一回練り上げた魔術を霧散させもう一度言われたイメージでやってみた。


「お、今度は普通の色だぞ。アイは天才だな」

「褒めてもなんも出ない、それに火と水を出すだけなら魔力を扱えるようになった人なら割と誰にでもできる。ここから攻撃魔術として転じていくのが難しいの」


 そうだった、忘れていた。実技試験を突破できるくらいということは遠くの的を壊せるようにならねばならないのだ。


「他の基本三種は明日以降に回す。取り敢えず今日は火と水の魔術に全ての時間を割く」

「わかった、それで頼む」

「じゃあまずは火の魔術からね」


 アイは右手を前に突き出すように構える。五十メートルほど先に木でできた人型の人形がある為それを狙うようだ。なにやらかなりの量の魔力を扱おうとしているな……、本当に大丈夫か?


「フレア!」


 おっと今度の魔術は相当短縮してはいるが詠唱付きか、と思ったのも束の間。木人形の上に直径一メートルほどの中型の大きさがある火の球が出現している。そしてアイが手を振り下ろすとそれに合わせて火の球が木人形に当たりドゴンッと爆発した。結構離れてるのに温風がこちらまで来ているぞ。凄い火力だな……。


「まあこんなもんじゃない?ほらやってみて?」


 相当難易度の高い魔術を使ったと思うのだが、アイは汗一つかかず平然としていた。


「やってみてって言ってもな。さっきからちょいちょい試しているんだが、そもそも遠くに魔力を生成するのが信じられないくらい難しいんだが?」

「そこまでわかってるなんてユウはやっぱりセンスがある。ちょっと試すようなことをしちゃったね、ごめん」


 どうやらアイは俺が実力を隠している部分があるのでは?と思っているらしいな。安心して欲しいというと変だが、申し訳ないが本当に基本魔術は使えないのだ。


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