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普通の魔術を教えてもらう

 入学式というものが国立魔術学院にも当然ある。そしてそれは合格発表から二週間後のことである。


 今のところ特に問題もなく入学できそうだが、しかし試験を思い出して俺は思った。あれ?実技試験一つも出来てないのにAランククラスに入るのってもしかして良くないのでは?と。


 落ちこぼれるわけにいかないと焦った俺は昨日カフェで連絡先を教えてもらった番号に電話をかける。自慢じゃないが既に登録してあった師匠の番号と合わせるともう連絡先が二件だ。この年になるまで仕事をしてきて友人など出来た事のなかった俺はとても感動している。


「もしもし、アイか?すまないが少し頼みがある、もし空いてたらでいいんだが時間をもらえないだろうか」

「いいよ、私も学院が始まるまで正直暇だったし。なんでも付き合うから言って」


 アイはそう言ってくれた、助かる。無償の優しさが胸にしみる。これで問題解決と行けばいいのだが……。


「ありがとう、待ち合わせは今から一時間後に昨日のカフェでいいか?」


 わかった。とシンプルな返事で電話は切れた。俺も特にすることはない、さっさと準備して出かけるとしよう。電話やメールなど連絡に使う通信機器と金銭の支払いに使うカードさえ持っていればあとは何もなくても大抵なんとかなるのだ。


 待ち合わせの時間より十分ほど早く到着した俺は先にカフェに入ってブレンドコーヒーを飲みながら外をぼんやりと眺めていた。


「一年前はまさかこんな生活をするとは夢にも思っていなかったな……」


 思わず俺はそんな言葉を漏らしていた。幸い誰にも聞かれていなかったようだが、独り言を言って呆けるような奴に自分がなってしまったかと苦笑する。今の生活は仕事をしていたころに比べれば既にはるかに平和なのだ。なので自然を気が抜けてしまう。


「まあ、無理もないよな」


 そう一人呟きながら飲んでいたブレンドコーヒーをコースターの上に置き、再び待ち人はいつ来るかなと外を眺める。


「なにが無理もないよななの?なんか変な顔してるけど」


 通路側から声がかかる、正直驚いた。気配に気付けないとは流石に思っていなかったのだ。


「まだ5分前だ、早いんだな。急な呼び出しなのに来てくれてありがとう、とても助かるよ」

「まあどうやらユウを待たせてしまったみたいだけどね。で、なにが無理もないよななの?」


 感謝を述べても追及はやめないつもりらしい。


「大したことじゃない、俺は人生において学院に通ってこなかったからな。それがまさかいきなり国トップの学院、しかもその中でも最上位クラスになってしまっただろう?だから頑張らないとなと意識を高めていたんだ」


 嘘は言ってない、だが俺の過去を話す気はさらさらないのでこれでいい。さして面白い話もないしな。


「なるほどね、若干表情と説明が違ってたと思うけどまあこれ以上は触れないでおいてあげる」


 それで何の用?と言って対面の椅子に座る。本当に察しが良くて恐ろしいくらいだ。アイは俺の飲み物を見て気を遣ったのかアールグレイのみ注文した。


「ああ、それなんだが……」


 俺は基本的な魔術が使えないことを説明した。苦手や落ちこぼれていたというわけではなく、そもそも年齢が若いうちから習うような魔術は使ってこなかったし、教わりもしてこなかったことを伝える。その上で入学式までの二週間で基本的な魔術を教えてほしいと頼みを伝えた。実技試験を平均点以上でクリアできるくらいまでどうにかなったらありがたいと言って説明を終えた。


「うん、なるほどね。よし、私が二週間付きっ切りで見てあげる」


 心の中で俺はガッツポーズを決めた。この展開に持っていくことが一番美味しいと思っていた。なにせアイの入学試験の総合点は九十八点、つまり実技試験は満点だったということだ。大抵こういう人は教えるのもうまい。良い先生を見繕うことができた。


「本当か、助かる」

「ただし二週間は相当短い。かなり本気で取り組む必要があるから厳しくはなる。それにそもそも昨日の話からしてなんでユウが基本的な魔術を使えないのかが分からないけど、なにかしらの理由があるんでしょう?」


 俺は周りに聞いている奴がいないか再度確認してから返答する。


「確かに俺は普通の生活を送ってきていない。そしてその生活では基本的な魔術は必要なかった、それだけの話だ」


 そうなのだ。この世界の魔術は詠唱をして放つというのが一番強い。魔力を言葉にすることでイメージを掴みやすいからだ。無詠唱や詠唱短縮と言った技ももちろんあるがイメージが難しく威力が落ちていく。そして無詠唱で詠唱時と同じくらいの威力を出すためにはそれこそ何十年といった歳月の鍛錬が必要なのである。


 俺は今十八歳、もちろん必死に生きてはきたがそんな努力を積み重ねる時間はなかった。じゃあ師匠に何を教わったのか?そんなのは簡単だ。銃と剣だ。


 魔術師を殺すのに大層な無詠唱魔術なんてものは必要なかった。銃の引き金を引けば人は死ぬ、子供でもわかる簡単なことだった。


 俺がこの世に生を受けてからこの方基本的な魔術なんて使えなくとも生きてこれた、それだけのことだ。


「そう、まあ人を殺す手段なんて色々あるものね」


 アイはさらっとそう言った。昨日過去に殺されかけたことがあると言っていたが、ここまであっさりとしていると壮絶な過去だったんだろうなと思えてしまう。


「ああ違うの、別にユウを勘繰るつもりはない。ただの感想よ。ほら基本魔術勉強するんでしょ、もう行こう?」


 アイは空のグラスを振って席を立つ。それで俺も気付いた、俺もいつの間にかグラスを空にしていた。過去を思い出して知らず知らずのうちに緊張してしまったのか。アイは恐ろしいほどに人を見ているなと感心してしまうのであった。

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