試験のからくりを教えてもらった
結局考えても何がおかしいのかわからなかったため俺は素直に聞くことにした。入学してから問題になっても面倒だからな、不安の芽は摘んでおきたい。
「えっとね、国立魔術学院の筆記試験は例年満点を取らせないように解けないはずの問題を二点分出しているの。過去の傾向から見てもそれは確実、そして今年もそういう問題はあった」
やはりか、そこまでは俺も思い至った。しかしその問題が分からないのだ、俺からすると全て同じ難易度で特別難しい問題は無いように感じたからだ。
「それは筆記最後の問題でね?もうズバリ言っちゃうけど、とある軍用魔術を知っていて使える人じゃないと解けないようになってる。毎年必ず」
あぁー……。なるほどな、それは盲点だった。確かに俺は今まで裏の仕事をこなして生きてきたし、師匠の教えを受けているから軍用魔術には理解がある。だから常識の範囲だと勘違いして違和感を持たずに解いてしまったのか……。
「それはわかった。しかし運で解けないのか?最後の問題って言うと馬鹿みたいに長い問題文だったやつだろう?よくよく読んだら解けたりは……」
「しない」
アイは即答した。
「知らないみたいだから教えてあげるけど、ここの学院の最後の問題はかなり難しいうえに配点が他よりも少ない二点しかない。だからやらなくても良いという流れがある、それに本当のことをいうとそもそも読んでもよくわからないようになってる」
アイにはそう説明されたが、それでもわからない。俺からするとしっかり読めば理解できる普通の文だったと思うのだが……。ちなみに問題用紙は持ち帰れない為後から解くことは出来ないようになっているし、暗記しようにも最後の問題は長すぎて暗記は実質不可能だ。
「ユウは魔術破壊が使えるんでしょ?」
「っ!?」
俺は飲んでいたコーヒーを思わず噴き出した。
「……なんでそれを?」
「それが筆記最後の問題のギミックだから。噂でしか知らないけど毎年そうらしいよ。魔術破壊が使える人には随所が正しい文で読めるっていうことなんだって」
「幻惑系の魔術が問題文にかかってたってことか……。そう言われてみると確かに不自然に魔力を帯びていたからしっかり読もうと集中した記憶はあるな……」
でもなんで軍用魔術である魔術破壊を知ってるんだ?アイもそっちの関係者なのか?そう俺が疑問に思い始めるとまたも目線で思考がバレたのかアイが口を開く。
「違うよ?私は裏の住人じゃない。ただ昔ちょっと殺されそうになったことがあるだけ。その時に色々と魔術のことを知ったんだ」
あっけらかんとアイは言う。嘘を言っている様子もないし本当の過去なのだろう、俺は納得して噴き出して減ってしまったコーヒーをまた新たに頼んだ。
「ふーん、大変だったんだな」
俺が適当にそう言うとアイは今日何度目かまたふふっと優しく笑った。
「ユウは本当に面白い人だね。同情とか哀れみとか無いんだ?自分で言うのもあれかもしれないけど私結構綺麗な見た目してると思うんだけど?慰め得じゃない?」
「俺にもアイにもその気がないのに口説けってのも変な話だ。それにアイは今を強く生きてんだからそれでいいだろう」
そう言うとアイの頬が少し赤く染まる。
「ふーん、まあ五十点くらいかな……」
「じゃあ満点だな」
「うわ、つまんないよそれ」
悪かったな、センスは師匠に教えてもらってないんだよ。
その後は話の流れで実技試験で魔術破壊を教官にぶっ放したことまで説明した。おそらくカッコの点はそれだろうと話が付いた。そして同じAクラスになったもの同士これから仲良くしようと結論付けて別々の帰路についたのであった。