クロマク
※ 黒井羊太さま主催「ヤオヨロズ企画」参加作品。
「……! まさか、キサマが黒幕だったとは……!」
勇者は戦慄した。あとすこしで、腰を抜かすところだった。なんならショック死していたかもしれぬ。
「ふはっ。そうだ、僕が黒幕だったのだ。人間をドン底へ突き落とす刺客として生を受け、お前たちの生活へ溶け込んでいたのだよ」
「くっ、生まれながらの将軍ということかっ」
勇者は歴史がわからぬ。かっこよさげなフレーズを人一倍覚えていて、自分のセリフに引用したがるってだけだ。そして、
「キサマああっ……」
そのあとがどうにも続かず、勇者は悔しげなモーションを入れるのであった。……いや、ほんとに悔しいんだろうけど。
「ふっ。これでも食らえぃ!」
「ぐぉオオオオォッ!」
勇者は苦しんだ。彼のまぶたを闇が襲い、動こうにも動けず、ただ同じモーションをくりかえす。
「ふはっ。どうだね、僕の必殺・スガタヲケス攻撃の威力は」
「威力業務妨害だっ」
「さよう、お前たち人間の業務だなんてのは、僕がドロンすればひとところにオジャンなのさ」
「キッサマぁああっ……!」
勇者は語彙が欠如した。しばらくただただ悔しがり、嘆くばかりであったが、やがて不敵な笑みっぽい表情を絞り出すと、こう反撃に出た。
「こうなりゃ奥の手だ。いでよ親友っ!」
「お呼びでしょうかッ」
現れたのは勇者の親友……という設定のだれかさん。
「親友よ、キサマがコヤツの代わりとなるのだ!」
「承知しまーしたッ」
すると、すでにスガタヲケス状態の進行中にあった敵の影はさらに薄くなり、声もか細くなったが、そのか細い声で言った最後のことばがこれである。
「命をつないだな。だが、そいつはほんとうに、お前の従順な下僕かな……」
だが、勇者はこれを罵るばかり、
「キサマはそんなことしか言えんのか。はっ、イミシンチョウは俺には効かぬぞ!」
なぜなら、わからぬからである。……って言うまでもないけどさ。
―― ともかくも、そんなこんなで、人間は新たな従者によって命をつないだ。これが、彼らの勇者の功績である。
蚕ってね、人が餌をやらなきゃ生きていけないんだって。
……ということで、はい。なんか人間にとっての大きな存在の擬人化でした。抽象的でスミマセン。