第50話 初デート③
陽葵と談笑しながら手を繋いで歩いて目的地のショッピングモールに着くと、既に店内は沢山のお客さんで賑わっていた。
日曜日のお昼頃ということで、家族連れを中心として、学生らしき若者や仲睦まじい老夫婦など実に様々な客層が見られる。
「今日は服を買いに来たんだよね」
「はい。秋用の服を早めに買っておこうかと」
「女の子って凄く洋服にお金使うし、沢山買うイメージあるんだど陽葵もそんな感じ?」
「そうですね、今日は五着くらい買うつもりです」
「そんなに買うの!?」
「お母さんと一緒に暮らし始めたのを契機に、服も一新しようかと思いまして。それに……」
婦人服売り場が集中するフロアにエスカレーターで向かう途中、陽葵との会話がぴったりと途切れた。
それに、後に続く言葉を待っているうちに目的のフロアに着く。
レディース中心に固められた店並びは何処を見てもオシャレな店員さんが控えていて、それぞれ笑顔を絶やさず接客している。
しかしその目は完全に獲物を狙う目で、一度店内に入れば途端に店員が近づいて来る。
そしてマシンガントークと褒め殺しによる購買欲の促進を行うのだ。
秀次に取ってオシャレな洋服店はそういうイメージで補完されていた。
こういったショッピングモールに構えているブランド物を取りそろえた店など全く行ったことが無い。
記憶をいくら遡っても、陽葵とサイン会に行くことになった時に翔に強制連行された一度だけだ。
その為、秀次はフロアを一瞥した瞬間、謎の拒否反応を起こしてエスカレーター手前で止まった。
オシャレな店の雰囲気に気圧されたのか、苦手意識が歩く気力を失わせたのか。
突然立ち止まった秀次とは対照的に、迷うことなく目の前のお店に進んで行った陽葵が振り向いて見つめてくる。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとオシャレな店に入るのに気が引けて……」
「……今日は秀次君がいてくれないと困るので頑張って下さい」
「えっ、そうなの?」
「今日の目的は新しい服を買うだけじゃなくてですね……」
エスカレーターの時に聞き損ねた言葉の続きを陽葵を言おうとしているのだろうか。
今回も同じように少し言い淀んで、何やらもモジモジと気恥ずかしそうにしている。
やがて俯いて顔をほんのり赤らめた後、意を決したように秀次に向き合った陽葵は真っ直ぐと目を見据えながら言葉を紡いだ。
「今日は秀次君に私の服を選んで貰おうと思って来たんです」
「……俺に?」
「はい。秀次君に」
「ちょ、ちょっと待って! 見ての通り、俺って服のセンスゼロだよ!? そんな俺が陽葵の服を選ぶとか無理すぎる……」
自分で言っていて悲しくなるが、れっきとした事実なので秀次は恥じることもなく両手を広げて陽葵に今日の服装をアピールする。
上から無難なTシャツ、無難なジーンズ、そして無難なスニーカ―。
時々、シンプルながら実はお値段高めできちんと考えられている、一周回ったオシャレコーデをする人がいるが、無論秀次にそんな芸当が出来るはずが無い。
全て近くのチェーン店で適当に見繕った奇をてらわない無難コーデそのものだ。
そんな秀次に誰かの服を選ぶ、しかも女の子のコーデを考えるなどという重役は荷が重い。
どんなにセンスが無くても、ラフでシンプルな格好をしていれば許される男の子と違い、女の子のファッションには様々なものが求められるのだ。
好みの良し悪しはもちろんのこと、肌色や髪色、更には体型や体質、他にも細かい要素を考慮なければならない。
「もし俺が選んだら絶対に変な感じになるよ? それでもいいの?」
「はい、もちろんです。……私は秀次君の選んだ服が着たいんです」
「それが超絶ダサくても?」
「仮にダサかったとしてもです。秀次君が私に似合うと思って選んでくれた服ですから。他の誰かにダサいと思われたとしても、秀次君に可愛いと思って貰えれば私はその服を喜んで着ますよ」
頬を真っ赤に染めながらも、蒼い瞳を真っ直ぐ逸らさずに陽葵から紡がれた言葉はあまりにもストレートすぎる好意の意だった。
貴方が一番好む服を着たい。
彼女からそんな事を言われたら、どんな男だってハートを深く射抜かれてしまう。
「……分かった。全力を尽くして陽葵の服を選ぶよ」
「そ、そんなに気合を入れなくても良いですからね! 本当に、直感で選んで貰えれば……」
「いや、今日一日全部使って陽葵に一番似合う服を探す」
さっきまでの拒否反応や苦手意識は何だったのか。
やる気に満ち溢れた秀次は、オシャレ感満載の洋服店に真正面から突入していった。
全ては陽葵に一番合う服を探すため。
「待ってください、私も行きます!」
置いて行かれた陽葵が秀次の背中を慌てて追う。
その表情は幸せに満ち溢れていた。




