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第49話 初デート②


 夏が過ぎ去り、時は九月の中旬。

 太陽が遠ざかり、涼し気な風が肌を撫でる頃。


「お、お待たせしました……。ごめんなさい、秀次君を待たせてしまって……」

「いやいや時間ぴったりだよ。俺が早く来すぎただけだし」


 日曜日の駅前、待ち合わせ場所に指定時間通り陽葵はやって来た。

 

 白地の緩やかなスモックブラウスに、淡いピンク色のシフォンロングスカート。

 まさしく清楚美人といった陽葵のコーデは、休日に人混みが集中する駅前で大いに視線を集めた。

 その視線は主に男性からの様に見えるが、女性もちらほらとこちらを見ているのが分かる。

 

 整った顔立ちに、海を思わせる深い蒼色の瞳。

 薄暗い金髪は腰辺りまで長く伸び、風に揺られて絹のような美しいラインを描く。

 

 元々、思わず息を呑むほど美しい陽葵がオシャレをしてきたらどうなるかは目に見えていた。


(万が一に備えて三十分前から待機していてよかった……)

 

 陽葵に集まる視線を感じて、秀次が思い出すのはサイン会に行った時の事。

 先に待ち合わせ場所に着いていた陽葵を囲むナンパ野郎の姿だ。


 その為、秀次は同じ轍は踏まぬと余裕を持って待ち合わせ場所に来ていた。

 お陰で周りからの視線は免れないものの、声を掛けてくるものいない。

 それに、陽葵が可愛らしく駆け寄ってくる姿を見れて一石二鳥と言った感じだ。


「それじゃ、行こうか」

「はい……あのっ、秀次君」

「ん? どうしたの?」

「……手、繋いでいいですか?」


 上目遣いにか細い声、そして差し出された小さな手を見れば、断る人間などこの世にいないだろう。


 秀次は言葉を返す代わりに、陽葵の手に指を絡めていく。


「……ふふっ。秀次君の手、とってもあったかいです」


 しっかりと繋いだ手を中心に、肩が触れ合う程近い距離で陽葵が隣を歩く。


 周りの視線が痛いが、秀次がいちいち気にする事は無かった。

 

 傍から見れば不釣り合いで、有り得ない組み合わせなのかもしれない。

 その自覚は秀次にもちろんある。

 今まで、陽葵と一緒に居て何度も経験してきた他人からの評価だ。


 それでも陽葵が選んでくれた。


 そして陽葵を幸せにすると誓った。


 だから秀次は周りの目など気にせず、堂々と陽葵の隣を歩く。


 陽葵の彼氏として、恋人して。

 

「……これって、初デートだよね」


 ふと、秀次が紡いだ言葉に陽葵の手がピクッ、と反応を示す。

 

「……付き合ってから初めてのお出かけなので……そう、なりますね」

「そうだよな、俺たち恋人になったんだよな」

「改めて言われると何だか少し恥ずかしいですね……」

「ごめん、ちょっと気になって」

「いいえ、嬉しいですよ。その……私が秀次君の彼女ってことが改めて感じられるというか……」


 こいびと。

 かのじょ。


 たった四文字の言葉に気恥ずかしさを覚え、頬が熱くなるのを感じるのは何故だろう。

 横目で陽葵を見れば、その雪の様に白い肌も淡く紅色に染まっていた。

 

 秀次は再度、陽葵と付き合っているという夢のような現実を受け止める。


 今この瞬間、手を繋いで隣を歩いている状況が秀次と陽葵の関係を示す何よりの証拠だった。

 


 


 

 

 





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