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第47話 ピュアピュアで甘々な恋物語


「なあ、秀次。今日は何の日だ?」

「……クリスマスイブだな」

「そう、つまりは世界中のカップルがイチャイチャする日だ」

「大分語弊があると思うけど、まあいいや。それで、何が言いたい訳?」

「そんな聖夜であり性夜でもある神聖な日に、何で俺たちは学校にいるんだよ!」


 何故わざわざ聖夜を二回言ったのかという分かり切ったツッコミは置いといて、秀次は不平不満をぶちまける親友をよそ目に辺りを見渡す。

 私立高校らしく広々とした体育館には教員生徒合わせて千を超える人たち集まっていて、私語や雑音でかなり騒がしい。

 そして時々聞こえてくる、冬休みやクリスマス、正月と言った単語を聞けば、自然と周りの明るい表情と弾む声の正体を理解することができた。


「えー、これより終業式を始めます。一同、例……まずは校長先生のお話です」

 

 やがて河童というあだ名が校長がマイクを取ると、体育館一帯が静まり返った。

 男子校ということで、やんちゃなイメージが付き物なのだが生徒の大半はお利口さんだ。

 メリハリがきちんとしていて、はしゃぐ時ははしゃぐ、黙る時は黙る判断が出来ている。


 数少ない例外を除いては。


「秀次ー? おーい、秀次くーん? 聞こえてますかー」

「……聞こえてるよ。頼むからもう少し静かに喋ってくれ。後ろから刺さる先生の視線が痛い」

「わかったわかった。……で、結局どうなったわけ?」

「……何がだよ」

「またまたー。わかってるくせにー」


 脇腹を軽く突いてくる肘を払いのけ、こちらに向けてくるニヤニヤと生暖かい視線を睨み返せば、翔は怯むことなく満面の笑みを浮かべた。


 この憎たらしい表情を二学期の間に何度見ただろう。


 鬱陶しいことこの上無しなのだが、無下には出来ないのがまた秀次に取って頭を悩ませるポイントだった。


 翔には大きな恩がある。

 それも、とびっきり特大の恩が。


 だから秀次は大きなため息をついた後、正直に口を開いた。


 それが隣に座る親友を更に喜ばせ、今以上に面倒臭い絡みをされると分かっていてもだ。

 

「……今日、この後待ち合わせしてる」


 案の定、翔がテンションマックスであれやこれやと追及して来るのをどう躱そうか考える前に、思わぬ助け船が来た。


「佐久間! 久々に式典に出席した思ったらお前は喋りに来たのか!」


 おっかない生活指導の声と共に、翔は肩を竦めて知らぬ存ぜぬの顔をする。

 

「まっ、何はともあれ良かったな。秀次、幸せになれよ」

「……言われなくても。今もこれからもずっと幸せだよ」

「そりゃあ良いこった。是非とも、結婚式には呼んでくれ。友人代表でスピーチをしてやる」

「まだ気が早いけど……。元よりそのつもりだから安心しろ。だから、絶対に変なことは言うなよ」

「そこは流石に場を弁えるって。新郎は新婦に一目ぼれした後、話しかけるのに四か月かかった、とか言えばいいんだろ?」

「良いことを教えてやる。それを変なことって言うんだよ」


 秀次と翔のくだらない掛け合いは、再び生活指導の先生の怒声が轟くまでずっと続いた。


 互いの表情はとても晴れやかで、口元には笑みが浮かんでいた。


「……色々とありがとうな」

「親友の為だ、良いってことよ」

 

 終業式が終わり、別れ際。

 最後に一言ずつ交わした言葉は二人の絆を更に深めた。





「お待たせ、陽葵。悪い、待たしちゃったか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。私も今丁度来たところですから」

「それなら良かった。……それじゃ、行こうか」

「はい、行きましょう」


 秀次が手を差し出すと、陽葵はわざわざ防寒用の手袋を外して迷うことなくポケットに入れた。

 そのまま互いの指と指が絡まりあい、重なりあった肌を通して体温が伝わってくる。

 身体だけではなく、心までもが見えない熱で満たされる、そんな心地がした。


「あったかいですね……」

「そうだね。凄くあったかい」


 冷たい風が吹き込む十二月の夜道を二人で肩を並べて歩く。

 向かう先は都内で毎年大盛況を誇るイルミネーションが展示される場所だ。

 並木道を丸々青色の光で覆った斬新なイルミネーションが作り出す幻想的な風景は、聖なる夜の雰囲気にぴったり当てはまっていて、主にカップルの間で大人気らしい。


 イルミネーションまでの正規のルートは都心ということもあって、見たことがないような人の大渋滞が形成されていたので、二人は遠回りでも人通りが少ない道を選んだ。

 そのお陰で、駅前の集団が嘘のように周りには誰も居なかった。


 住宅街の簡素なイルミネーションの光と静かな風の騒めきが秀次と陽葵、二人だけの世界を作り出す。


「……ふふっ」

「何々、思い出し笑い?」

「こうして秀次君と手を繋いで歩くのは、いつになっても慣れないなって」

「確かに。俺もまだちょっと恥ずかしい」

「それが何だかおかしくって笑っちゃいました。だって私達、もう何度も手を繋いでるんですよ?」

「俺多分、陽葵と手を繋いだ時の事全部覚えてる」

「あっ、それなら私も自信がありますよ! 秀次君との思い出は全て鮮明に覚えています」


 夜空から降り注ぐ月明りに照らされながら、二人は共に紡いできた思い出の数々を振り返る。


 ショッピングモールで服を買いに行ったこと。

 樹本真夜先生原作の映画を見たこと。

 水族館でイルカショーを見た時にびしょ濡れになったこと。

 遊園地の観覧車で初めてのキスをしたこと。


「あっ、そういえば。あの時も秀次君は手を繋いでくれましたね」

「まだ何かあったっけ?」

「ほら、私が正式に綾辻陽葵になった日ですよ」


 ほんの少しだけ空気が重くなったのは、あまり楽しい思い出では無いからだろう。

 それでも陽葵の表情の明るさが、最終的には良い結果になったことを物語っていた。


 正式に綾辻陽葵になった日。

 それはつまり、綾辻陽葵の親権者が唐立誠が綾辻香織に移った日のことを指す。


 家庭裁判所を通して行われた審議は最短の一カ月で幕を閉じた。

 誠が一刻も早くと、細かい審査や長い過程をすっ飛ばして終わらせたらしい。

 普段の誠からは有り得ない潔さの裏には何があったのか、それは数少ない当事者だけが知っている。

 

「翔に感謝だな」

「ええ、本当に」


 幾つもの思い出を振り返りながら歩いていると、いつも間にか都会の喧騒と一面の青い光に包まれた。

 秀次と陽葵は思わず立ち止まり、視界に広がる青色の世界に目を奪われる。


「……綺麗ですね」

「そうだね、凄く綺麗だ」


 青色で彩られた並木道を歩く間も、秀次と陽葵の手はしっかりと繋がれている。


 どこまでも続く青に陽葵の瞳を思い浮かべ、ふと隣を覗き見るとばっちりと目があった。


 同じタイミングで振り返った二人は仲睦まじく笑顔を咲かせる。


 そして陽葵の手がゆっくりと離された。


 温もりが残る右手を寂しく思いつつ陽葵を見れば、肩に下げたカバンから少し大きめの紙袋を取り出した。

 何やら少し間を空けて躊躇った後、陽葵は紙袋の中身を取って秀次に差し出した。


「……これ、クリスマスプレゼントです。受け取ってくれますか?」

「マフラーだ……凄く暖かそう。ありがとう陽葵!」

「は、はい……その、上手く出来ているか自信が無いのですけど……」

「えっ、もしかしてこれ手作り!? マジか、全然気づかなかった。普通に商品と見間違えるレベルだよこれ。うわっ、陽葵が作ってくれたのか……やばい、めちゃくちゃ嬉しい」

「……それなら……良かったです」

  

 陽葵が薄く頬を染めて俯いてしまったのを不思議に思いつつ、秀次は貰ったマフラーを首に巻き付ける。

 彼女の手作りマフラーは身体だけではなく、心までも暖めてくれた。

 幸せで胸がいっぱいになり、自然と笑みが零れる。


「陽葵、俺からもクリスマスプレゼント」

「わっ、ありがとうございます。 開けてもいいですか?」

「どうぞ。……気に入ってくれると良いんだけど」


 秀次が差し出した立方体の小さな箱を陽葵は両手で丁寧に開けた。 


 赤い布に埋もれるようにして、シンプルなデザインのリングが二つ、仲良く隣り合って並んでいる。


「これってペアリングですよね? 秀次君と私のイニシャルが入った特製の……」

「……本物はまだ渡せないけどさ。何か俺の気持ちを形に出来たらなって……思ったんだけど……」

「……嬉しい。とても嬉しいです! 秀次君、ありがとうございます!」


 陽葵に促さられ、秀次が陽葵の右手の薬指にリングを嵌める。

 それから秀次の指にも同じ場所にお揃いのリングが嵌められた。


「……いつか左の薬指につけてくれますか?」

「……ああ、約束するよ」


 辺り一面を照らす青色の光とは対照的に、秀次と陽葵の顔が真っ赤に染まる。


 お互いに照れくさそうに笑いながら、二人はまたしっかりと手を繋いで歩き出した。

 

 青色の世界を抜けて、再び二人の世界へと戻ってくる。


「秀次君。私、今とっても幸せです」

「俺もだよ。多分、世界で一番幸せだと思う」

「……秀次君、これからも私を幸せにしてくださいね」

「もちろん。陽葵のこと、一生幸せにする」

「私も秀次君のこと、一生幸せにしますから」

「……二人で幸せになろうな」

「はい。約束です」


 永遠の幸せを誓い、やがて沈黙が訪れ。


 二人は立ち止まって、目を合わせた。


「……陽葵、愛してるよ」

「……私も、秀次君のこと愛しています」


 愛の言葉を紡いだ二人は暫く見つめ合い、それからゆっくりと互いの唇を重ねた。


 


 


 

 

 



第47話を最後までお読みくださった皆様ありがとうございます。


遂に今日、完結の時を迎えました。

こうして後書きを書いている間もまだ実感があまり湧きません。


三カ月弱、秀次と陽葵。二人のピュアピュアで甘々な恋物語を描いてきました。

ここまで「ピュア甘」を書き続けられたのは偏に読者様のお陰です。


評価を入れてくれた方。

ブックマーク登録をして、定期的に読んでくださった方。

感想を書いて、反応を文字にして送って下さった方。


読者様の応援には感謝してもしきれません。

完結を迎えた今日この日まで、沢山の応援本当にありがとうございました。


良ければここまで「ピュア甘」を読んでくださった読者様には、最後に感想を残して頂けると大変嬉しいです。


まだまだ沢山語りたいところではありますが、あまり長くなるといけないので、伏線などの裏話や、作者の作品への想いなどは全て明日投稿の活動報告にて記載させて頂きます。

興味のある方は是非、マイページを覗きにいてください。


そして最後に。

「ピュア甘」のアフターエピソードとして、秀次と陽葵の付き合った後の話を書く予定です。

物語の蛇足にならないか心配なのですが、隔週で投稿出来たらなと思います。

ブックマークはそのままで、いつか投稿される二人のピュアピュアで甘々なお話をまた読んでくださると嬉しいです。


それではまた。

ここまで本当にありがとうございました。

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